養殖を変える日本発衛星&遺伝子ベンチャー:宇宙ビジネスの新潮流(1/3 ページ)
21世紀は「養殖の時代」と言われる。既に天然漁獲高と匹敵しており、将来的には養殖が市場全体の3分の2を占めるという。そうした中、愛媛で世界の養殖産業を変え得る実証事業が行われているのだ。ユニークなのは、衛星技術とバイオ技術を駆使している点である。
2016年も残すところ1カ月を切った。少し気分は早いが、新年のおせち料理に出てくる定番なのが鯛(タイ)だ。近年は天然物だけでなく養殖物も増えていて、愛媛県は日本一の鯛の養殖産地だ。
21世紀は養殖の時代とも言われるが、世界の養殖漁獲高は既に天然漁獲高と匹敵しており、将来的には養殖が市場全体の3分の2を占めると言われている。金額ベースの市場規模は年間約5%で伸びており、2020年には世界の養殖市場は20兆円を超えるという予測もある。
そうした中、愛媛で世界の養殖産業を変え得る実証事業が行われているのをご存じだろうか。ユニークなのは、衛星技術とバイオ技術を駆使している点である。その取り組みを進めるベンチャー企業、ウミトロンの藤原謙代表取締役に話を聞いた。
養殖産業向けのデータサービス事業
私は大学時代に小型衛星研究をして、JAXA(宇宙航空研究開発機構)で天文衛星の姿勢制御に携わりました。その後、宇宙技術を世の中に役立てたいという思いから、米カルフォルニア大学バークレー校にMBA(経営学修士)留学。在米中は、宇宙旅行のための機体開発を進めるベンチャー企業でインターンをして事業計画や資金調達を手伝うなど、宇宙ベンチャーコミュニティーにどっぷり浸かりました。
帰国後にすぐ起業することも考えたのですが、まだ具体的なアイデアとチームがなく、事業経験も積みたかったことから、三井物産にて新事業開発に携わらせていただきました。その後は衛星ベンチャーへの出資、北米の農業ITベンチャーの営業支援などを行い、1次産業と衛星データの親和性が高いことを肌身で感じました。
その後、ビジネスを立ち上げたいとの思いから、日本発で勝負できる分野として着目したのが養殖産業でした。養殖産業は21世紀の最も有望な投資機会と言われており、世界の養殖漁獲高は天然漁獲高に匹敵する量にまで増えています。世界銀行の予測では2030年には養殖が市場全体の3分の2を占めるまでになるとされています。
生簀(いけす)の遠隔モニタリングをする
養殖産業の課題はエサ代です。現在、エサ代が生産コストの半分以上を占め、価格高騰で経営を圧迫しています。そこで衛星データなどを活用して、エサを上げるタイミングと量を最適化できないかと考えて、水産養殖向けのデータサービス事業を行うウミトロンを2016年夏に起業しました。現在は、日本で真鯛養殖生産高1位を誇る愛媛県の愛南町で複数の実証事業を行っています。
ウミトロンでは主に3つのデータを取得・統合して、エサの量とタイミングの最適化を進めようとしています。1つは生簀(いけす)内のデータで、水中カメラで魚の動きをモニタリングします。2つ目が海洋データで、広域のプランクトン分布や海面温度を見ます。3つ目が遺伝子データで、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術を活用してミクロな養殖環境をモニタリングします。
生簀のデータに関して、湾内には300くらいの生簀があり、一つ一つは縦12メートル、横12メートル、深さ10メートルほどの大きさです。その中にいる約1万2000匹の魚の動きを水中カメラでモニタリングしています。魚の動きからエサを食べたかどうかを解析する技術を構築しており、それがエサの量とタイミングを最適化するための重要なデータになります。
このカメラシステムにはデータ蓄積以外に生簀の遠隔監視という機能もあります。通常エサやりはタイマーセットがされて朝夕の2回やり、その後、生簀を人間が直接回ってエサを食べているかどうかを見ることもあります。これらの作業を、映像を見ながら遠隔で監視・操作できるようになりました。日本中どこからでも生簀の状況を見ることができますので、漁業関係者から大変好評を得ています。
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