鉄道のオープンアクセスは日本で通用するか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
赤字ローカル線の救済策として「上下分離化」が進行中だ。鉄道会社とバス会社の施設負担について格差解消を狙った施策とも言える。しかし、日本における上下分離化は鉄道会社間の不公平の始まりでもある。運行会社が1社しかないからだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
ドイツ鉄道は2016年12月11日のダイヤ改正で国際列車の寝台車を廃止する。今後は高速列車「ICE」の夜行運転に切り替える。寝台列車は全廃。座席列車だけだ。夜行列車が残るだけ日本よりもマシかもしれない。いや、マシどころではない。たとえドイツ国鉄が寝台列車を廃止しても、ドイツを発着する寝台列車が走り続ける。ベッドもシャワーもこれまで通りだ。
とんち問答のような話だけど、これが鉄道における「オープンアクセス」の効果である。ドイツ鉄道が寝台列車を廃止しても、ほかの鉄道会社が寝台列車を運行する。11月24日付の読売新聞によると、10月にオーストリア連邦鉄道がいくつかの路線継承を発表し、ドイツ鉄道から車両を譲受し改装したという。
ドイツ鉄道は寝台列車から撤退したけれども、ドイツを発着する寝台列車が走る。ただし、運行会社はオーストリア連邦鉄道だ。この動きに追随して、ほかの鉄道会社も参入するかもしれない。ヨーロッパの鉄道のほとんどで、列車運行会社は各国の線路会社と契約できるし、線路保有会社も複数の列車運行会社と契約できる。高速道路を複数のバス会社が利用する仕組みと同じだ。
日本の上下分離化は、線路保有会社と列車運行会社が1対1の関係になっている。同じ会社を割ったから当然の結果だ。これに対してヨーロッパの線路は複数の列車運行会社が走行できる。これを鉄道におけるオープンアクセスという。本来のオープンアクセスは「学術論文の営利独占をやめ、誰もが閲覧できる」という意味だった。鉄道もこれに習い「線路の独占をやめ、誰もが列車を運行できる」という仕組みをこう呼ぶ。
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