鉄道のオープンアクセスは日本で通用するか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
赤字ローカル線の救済策として「上下分離化」が進行中だ。鉄道会社とバス会社の施設負担について格差解消を狙った施策とも言える。しかし、日本における上下分離化は鉄道会社間の不公平の始まりでもある。運行会社が1社しかないからだ。
ヨーロッパの鉄道「オープンアクセス」の経緯
ヨーロッパ諸国は国有鉄道を民営化するときに、線路保有会社と列車運行会社を分離した。上下分離である。欧州連合も上下分離を推奨し、このときにオープンアクセスという仕組みを作った。作ったと言うより、それが当然という考え方だと言える。なぜなら、ヨーロッパでは古くから国際列車を運行し、国鉄と列車運行の経営分離に慣れていたからだ。
1950年代から1990年代にかけて、TEE(Trans Europ Express)と呼ばれる国際列車が存在した。原則として1等車のみ。個室、あるいは3列座席、または6人までの開放個室、食堂車または食事提供サービス、車両のデザインもそろえて、TEEのマークを掲げた。この列車はヨーロッパ域内だけではなく、世界の旅行愛好家の憧れでもあった。
TEEの運行は、オランダのデン・ハーグにあるTEE委員会が総括した。TEE委員会はオランダ、ドイツ(西ドイツ)、フランス、イタリア、ベルギー、ルクセンブルグ、スイス、オーストリアの国鉄が参加した。
さらにさかのぼって、そもそもヨーロッパの国際列車は国鉄ではなく、列車運行会社が手掛けた。初めて国際列車を運行した会社は「ワゴン・リ」だ。鉄道会社ではなく車両保有会社だった。発案者はベルギーの実業家、ジョルジュ・ナゲルマケールス。彼は米国の大陸横断鉄道にヒントを得て「ヨーロッパにも寝台車と食堂車が付いた長距離国際列車が必要」と、各国の鉄道会社を口説いて回った。
ワゴン・リは客車を作り、各国の鉄道会社の線路と機関車を使って運行した。その1つが日本でも有名な「オリエント急行」だ。ヨーロッパの国際列車は、列車運行会社が線路会社に使用料を支払うという商習慣になった。この方式をTEEも継承した。日本の直通運転のように「鉄道会社が直通元の車両を借りて走らせる」方式とは逆だ。車両会社が運行委託料を支払う。
日本で国鉄の赤字が問題になっていたころ、ヨーロッパでも同様に国鉄再編の動きが起きた。このとき、鉄道は線路保有会社と列車運行会社に分離された。その理由は、道路、港湾のように設備と運行を分離しようという考え方による。その背景には、列車運行組織が線路を保有する国鉄に使用料を支払うという商習慣があった。
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