鉄道のオープンアクセスは日本で通用するか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
赤字ローカル線の救済策として「上下分離化」が進行中だ。鉄道会社とバス会社の施設負担について格差解消を狙った施策とも言える。しかし、日本における上下分離化は鉄道会社間の不公平の始まりでもある。運行会社が1社しかないからだ。
日本の国鉄分割民営化で上下分離にならなかった理由
日本の国鉄を民営化するとき、上下分離ではなく地域分割になった。その理由はいくつかある。まず、ヨーロッパのように運行会社が線路会社に使用料を支払うという商習慣がなかった。その意味で、JR貨物の運行会社化は初めての事例、特例処置と言える。もちろん全旅客列車に適用しようという考えはない。
次に、国鉄分割民営化の目的の1つが、地域分割による労務管理改善だった。分割ありきの議論だ。今後の鉄道事業をどうするかという理想があったわけではなく、労務管理と赤字精算という対処療法。これがJRグループ誕生の理由だ。
日本では鉄道事業について「路線のすべてに責任を持つ」という考え方が根付いていた。線路も、車両も。それは「路線にかかわるすべての利益をいただく」ことでもある。鉄道開業時以来、路線は営利目的に作られた。ヨーロッパのように列車運行だけを他社が行うという形態は考えられなかった。
これは事後評価になるけれども、ヨーロッパの上下分離化は欠点もあった。重大事故の多発だ。線路保有会社にとって、利益を上げる手段は線路使用料の値上げ、または保守費用の削減になる。自社で何とかできる部分は保守費用の削減だ。これを実行した結果、線路状況が悪化し、事故が多発。旅客の鉄道離れが進んだ。特に象徴的な事故が英国で2000年に起きた。時速188キロメートルでカーブ区間を走行中の特急列車が脱線した。原因は線路のひび割れだった。その後、英国では線路保有が国有企業となった。
その意味で日本の「路線のすべてに責任を持つ」という地域分割は正しかった。ただし後年、鉄道会社そのものが無責任という事例が現れてしまったから、日本のやり方が正しい、とは言えない。
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