鉄道のオープンアクセスは日本で通用するか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
赤字ローカル線の救済策として「上下分離化」が進行中だ。鉄道会社とバス会社の施設負担について格差解消を狙った施策とも言える。しかし、日本における上下分離化は鉄道会社間の不公平の始まりでもある。運行会社が1社しかないからだ。
日本のオープンアクセスのチャンスは北海道にある
英国では、上下分離化によって線路保有会社のずさんな線路管理が問題となり、線路保有会社が国有化された。しかし、これは上下分離が原因というわけではない。JR北海道も同様の事故を起こしている。分離していようといまいと関係ない。線路保有の責任を全うできるか否かという問題だ。
もし北海道の線路を国有化し、しっかり保守できた上でオープンアクセスを実現したらどうなるか。JR北海道は札幌圏の通勤電車と、札幌と地方中核都市を結ぶ特急列車を運行する。ドル箱の札幌圏の列車を独占したいなら、そこだけは線路も保有すればいい。地域輸送は自治体が列車運行会社を作る。自治体が線路を保有するという仕組みも負担が大きいから、列車運行に専念させたい。通学、通院など用途に応じた列車を走らせる。
JR北海道問題解決のため、北海道の鉄道オープンアクセスを妄想してみた。線路は国有、JR北海道は札幌都市圏会社と都市間高速列車会社に分割、ローカル線の運営は自治体の自主運営に任せる。新たに観光列車会社、航空会社、宅配便会社の参入を進める
オープンアクセスだから、JR貨物だけではなく、宅配便会社も貨物列車に参入できる。道路の凍結、長距離トライバー不足が問題なら、拠点間輸送は荷物、あるいはトラックごと貨車に載せよう。北海道庁にはJR九州の「ななつ星 in 九州」のような観光列車を走らせたいと考える人がいるようだ。もし本当に北海道が魅力的で、観光客を獲得できるなら、勢いのあるJR九州自身が「ななつ星 in 北海道」を運行したっていい。
かつてドイツのルフトハンザドイツ航空は、短距離航空路線は非効率だからと、フランクフルト〜デュッセルドルフ間で列車を運行していた。航空便扱いで空港から乗り継ぎもできた。同様に北海道でも空路接続便として、JALやANAが千歳空港〜旭川〜網走などで列車を走らせたらどうか。冬期に閉鎖しやすい空港の都市へ定期運行を確保できる。
これは北海道に限らない。SL列車を走らせて観光客を迎えたいという自治体は、地域のローカル線のオープンアクセスに取り組み、運行経験が豊富な大井川鐵道に参入してもらおう。肥薩おれんじ鉄道もレストラン列車で全国のローカル線に参入できる。
JRグループも例外ではない。ななつ星 in 九州に加え、来年からはJR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風」、JR東日本の「トランスイート四季島」の運行が始まる。しかし、地域分割民営化の名残で、JR東日本が北陸や北海道の他社に乗り入れる以外は自社地域にとどまる。これで海外のクルーズトレインに勝てるだろうか。
海外からの集客を考えるなら、海外旅行客の要望に応えた列車を走らせよう。「京都へ行きたい」「車窓から富士山を眺めたい」「雪原や流氷を眺めたい」「噴火している山の近くに行きたい」、これらの要望をかなえるなら、日本列島を縦断するクルーズトレインが必要だ。ワゴン・リのように、観光列車専門会社を作り、JR旅客会社がオープンアクセスに同意すれば実現できる。
観光だろうと、通勤・通学・通院だろうと、列車を必要とする人々が、必要な列車を走らせる。これを実現する手法としてオープンアクセスに取り組みたい。JR北海道問題の解決はオープンアクセスの好機だ。楽しいことを考えようじゃないか。
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