「乗客がいない列車を減らす」は正解か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
青春18きっぷの利用開始日になったこともあって、中国山地のローカル線に乗ってきた。運行本数が少なく旅程作りに難儀し、乗ってみれば私一人という列車もあった。一方、快速列車で健闘する路線もある。不人気の列車の共通点は、遅さと運行時間帯だ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
12月9日に所用で島根県へ赴き、出雲市駅付近のホテルに一泊。10日と11日に中国山地の未乗路線を乗りつぶした。普段は出掛ける前に行程を作っておく。しかし今回は多忙のため無計画だった。ホテルで深夜まで翌日の日程を作った。都会の鉄道と違い、地方ローカル線の旅は当日の直感で動くと遭難するからだ。予想より早い時間に終列車が出て途方に暮れたり、何時間も列車が来なかったりする。
私は日本の旅客鉄道路線の全線完乗を目指しており、現在の乗車線区は全体の93.5%である。この地域の未乗路線は、JR西日本では芸備線の備後落合〜塩町、姫新線の新見〜東津山、津山線の津山〜岡山、そして智頭急行線全線にあたる智頭〜上郡だ。
地図上の未乗路線の配置を見て、何とか一筆書きで効率良く回ろうと思った。しかし、これがなかなかうまくいかない。運行本数が少ないからだ。中国山地は乗りにくい。これは完乗挑戦者でもよく知られた話である。地元の方も「列車が少ないでしょう」と呆れている。
列車が少ない、乗り継ぎがうまくいかない。さらに言うと、山間部では落石危険場所や老朽化したトンネルなどがあってスピードが遅く、原付バイクより遅い区間もある。こうなると「鉄道はアテにならない」が常識となり、沿線地域の人々も乗らなくなる。
乗客が減れば、鉄道会社は経費節約のため列車を減らす。ますます乗らなくなる。もう路線ごとなくしてバスにしてしまえ、となる。中国山地はそんな「廃止危惧路線」ばかりだ。現に三江線は廃止が決まった。
関連記事
- JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすな
JR北海道が自社で単独維持が困難な路線を発表した。総距離で1237キロメートル。単独維持可能な線区は1151キロメートル。それも沿線自治体の協力が前提だ。しかし本来、幹線鉄道の維持は国策でなされるべきだ。自治体に押し付けるべきではない。 - 夕張市がJR北海道に「鉄道廃止」を提案した理由
JR北海道が今秋に向けて「鉄道維持困難路線」を選定する中、夕張市が先手を打った。市内唯一の鉄道路線「石勝線夕張支線」の廃止提案だ。鉄道維持を唱える人々は「鉄道がない地域は衰退する」「バス転換しても容易に廃止される」という。夕張市の選択はその「常識」を疑うきっかけになる。 - JR九州が株式上場まで赤字路線を維持した理由
10月25日、JR九州は東証1部上場を果たした。同日前後、報道各社がJR北海道の路線廃止検討を報じている。このように対照的で皮肉な現実について、多くのメディアがさまざまな観点から論考するだろう。しかし過去を掘り返しても仕方ない。悔恨よりも未来だ。 - ローカル線足切り指標の「輸送密度」とは何か?
「輸送密度が○○人以下の赤字路線」など、赤字ローカル線廃止問題の報道で「輸送密度」という言葉が登場する。この輸送密度という数値の意味は何か。国鉄時代から取りざたされた輸送密度の数値を知ると、現在の赤字ローカル線廃止問題を理解しやすい。 - 地方鉄道存続問題、黒字化・公営化・貢献化ではない「第4の道」とは?
赤字事業は廃止、赤字会社は解散。資本主義ではそれが正しい判断だ。しかし鉄道やバスなどの交通事業では簡単に割り切れない。沿線住民や観光客の足として地域に貢献するという「公共性」が問われる。ただし、存続のための選択肢はわずかしかない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.