「乗客がいない列車を減らす」は正解か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
青春18きっぷの利用開始日になったこともあって、中国山地のローカル線に乗ってきた。運行本数が少なく旅程作りに難儀し、乗ってみれば私一人という列車もあった。一方、快速列車で健闘する路線もある。不人気の列車の共通点は、遅さと運行時間帯だ。
出雲市から中国山地へ「広島回り」が最短
出雲市駅から芸備線の備後落合〜塩町間に向かう。鉄道ルートは2つ。江津から廃止が決まった三江線を回って三次に出るか、宍道から木次線を回って備後落合に出るか。乗り換え検索アプリを使うと、最短は「出雲市から高速バスで広島に出て、芸備線で三次に出る」だ。日本海沿岸から中国山地の山の中に行くために、いったん瀬戸内海沿岸に出て戻れ、という。
アプリに頼らずバス会社のサイトを調べると、広島まで行かなくても、途中の三次インターバス停から路線バスで三次駅に行けそうだ。しかし、土地勘のない旅人にとって、路線バスは心許ない。鉄道をバスに転換した場合、路線バスは旅行者に好まれないと思う。だからこそ鉄道の存続は観光誘客に重要だ。
三江線回りの場合、江津発三次行きは1日3便しかない。江津発6時00分、次が15時17分、その次が16時38分。所要時間は3時間半以上。明るいうちに三次に着く列車は6時00分発だけ。しかし、出雲市からだとこの列車に乗り継げる列車がない。江津駅付近に泊まれば良かった。
木次線回りの場合、宍道駅から朝の便はない。備後落合行きは宍道発11時19分発と13時52分発の2便だけだ。朝は木次止まりの便がある。しかしその先は先に挙げた列車に乗り継ぐ。木次発備後落合行きは朝6時50分発の列車があった。木次駅付近に泊まれば良かった。
東京を出るときに日程を決めず、とりあえず便利そうな出雲市のホテルを予約したけれど、どうもこの出雲市泊は失敗だった。結局、宍道発11時19分発に乗り、備後落合駅に14時34分着。4分後の芸備線で塩町に達して目的を果たし、三次駅に16時00分着。1両のディーゼルカーに数人の乗客だった。
三次で泊まらず引き返し、1時間半後の芸備線で新見へ向かう。しかし直通列車はなく備後落合で乗り継ぎとなる。備後落合着は18時46分。この列車は三次へ折り返していく。新見行きの発車まで約1時間半、周囲は真っ暗闇である。
三次から備後落合まで来た人々は10人ほど。乗り継ぐ人はいない。駅周辺の人家は少なく、各々が停めておいたバイクや迎えの車で帰路についた。私は一人、誰もいない駅で待った。
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