「乗客がいない列車を減らす」は正解か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
青春18きっぷの利用開始日になったこともあって、中国山地のローカル線に乗ってきた。運行本数が少なく旅程作りに難儀し、乗ってみれば私一人という列車もあった。一方、快速列車で健闘する路線もある。不人気の列車の共通点は、遅さと運行時間帯だ。
最も乗車人員が少ない区間
備後落合発20時12分のディーゼルカーは、19時50分に到着した列車の折り返しだ。乗客ゼロの列車が来て、発車時は私だけ。新見到着は21時35分。このうち備後落合〜東城間が、JR西日本が公開する資料では最も利用者が少ない区間だ。1キロメートル当たりの1日平均の通過人員は8人/日。廃止が決まった三江線は全区間で58人/日だから、それよりも少ない。次に廃止が検討される区間はここかもしれない。
新見行きが備後落合駅をもう少し早く発車すれば、三次発の列車から日常的に乗り継ぐ人もいそうな気がする。かつて備後落合駅は立ち食いそば屋があるほどにぎわったという。1978年10月号の時刻表を見ると、三次発新見行は8本あり、そのうち6本は広島から来る。また3本は急行だった。現在は備後落合で完全に分断されている。乗り継ぎ列車も2便しかないし、1本は1時間半待ちだ。
これでは旅人も地元の人々も「乗りたくても乗れない」状態だ。しかしJR西日本にも言い分はあるだろう。「乗ってくれないから走らせないのだ」と。合理化にあたり、乗客数の少ない列車を減らしてきた。しかし、その結果として乗り継ぎに難がある状態になり、元々乗ってくれるはずの人まで乗らなくなってしまったと考えられる。企業が合理化のために業績の悪い部門を切り捨てていくと、その部門に関連する他部門の業績が落ちる。そんな図式に近いかもしれない。
備後落合〜新見間の廃止論議はまだ起きていない。しかし、廃止を持ち出す前に、この乗り継ぎは改善すべきだろう。日中の便は6分間で収まっている。三次から新見への2便は6分または13分だ。1時間半は乗り継ぎを考慮していない。本当に需要がないだろうか。JR西日本は乗客の流動を確認し、見直しているだろうか。
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