ゲーム「A列車で行こう」で知る鉄道の仕組み:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
12月15日にWindowsPC向けゲーム『みんなのA列車で行こうPC』が発売された。俯瞰(ふかん)視点の町作りゲームで、どこか懐かしさを感じさせる作品だ。しかし、たかがゲームとあなどってはいけない。おもしろさの中に、実際の鉄道への気付きを見つけられる。
A列車で行こうシリーズの転機は1990年のシリーズ第3作『A.III.』だ。大統領を運ぶ使命はなくなり、当時大人気だった『シムシティ』のような町作りゲームに変わった。画面は斜め見下ろし視点となり、このアイデアは後のシムシティに影響を与えた。
シムシティは土地の区画に用途を指定し、発展を促すゲームだった。これに対してA.III.は、「線路を敷き列車を走らせる」「列車の乗客が発生する」「乗客数に応じて建物が増える」「列車の乗客数が増える」という循環を作って街を発展させるゲームだ。初代・A列車で行こうの「駅周辺の建物が増えていく」という部分を抜き出した経済的なゲームとなった。
A.III.ではプレーヤーが鉄道会社の社長となり、鉄道を建設していく。しかし、原野に鉄道を敷いただけでは乗客は集まらない。都市も発展しないし儲(もう)からない。そこで、子会社を建設する役目もある。ターミナル付近に商業ビルを建てる。郊外の駅周辺に住宅を建てる。住民が通勤するための工場を作る。こうして沿線を開発し、鉄道の利益と都市の発展を目指す。
A.III.以降のA列車で行こうシリーズは、一部の番外編的タイトルを除いて、この「鉄道建設と都市開発」という遊び方が基本だ。鉄道を敷き、その需要を喚起するために住宅、商業、レジャー産業を手掛けるという手法は、阪急電鉄の創始者、小林一三が発明した手法であり、後の日本の私鉄に大きな影響を与えている。
A列車で行こうシリーズは小林一三シミュレーターであり、このアイデアは実に日本的と言える。海外にも鉄道会社経営ゲーム『レイルロードタイクーン』シリーズがある。第1作はA.III.と同じ1990年の発売だった。しかし、レイルロードタイクーンは「需要地と供給地を効率良く結ぶ」に主題があり、ライバルの鉄道会社を倒産させるか買収するなどして、資産の順位でトップに立つという目的だった。
レイルロードタイクーンは、欧米で1840年代から始まった鉄道狂時代を再現し、鉄道建設と投資の駆け引きを楽しむゲームだった。これはこれでおもしろい。新作を遊びたいけれども、2006年の『シド・マイヤー レイルロード!』でシリーズが途絶えている。残念だ。
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