ゲーム「A列車で行こう」で知る鉄道の仕組み:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
12月15日にWindowsPC向けゲーム『みんなのA列車で行こうPC』が発売された。俯瞰(ふかん)視点の町作りゲームで、どこか懐かしさを感じさせる作品だ。しかし、たかがゲームとあなどってはいけない。おもしろさの中に、実際の鉄道への気付きを見つけられる。
長編成の列車がいいとは限らない
大量に旅客を運ぶためには長編成の列車がいい。しかし長編成列車にも欠点がある。列車が長くなるほど、分岐器の通過に時間がかかる。複線の終端駅で交差支障が発生する場合、長編成の列車同士だと交差支障の時間が長くなる。単線の駅のすれ違いも同様だ。成田線の空港支線の信号場や、川越線の単線区間のすれ違いは時間がかかる。列車が長く、分岐器の通過速度が遅いためだ。
単線に長編成の列車を走らせると効率が悪い。短い列車をたくさん走らせたほうがいい。しかし単線だから増発には限界がある。この場合は部分的に複線を作り、なるべく複線区間ですれ違うようにダイヤを設定する。ゲームでそこまでやると面倒だけど、実際の鉄道でも部分的複線の事例はいくつかある。
長編成と短編成
単線の場合は前述のように、列車の運行本数に制限があるから、輸送量を増加させるためには長編成化で対応する。しかし複線区間の場合は、10両編成を30分間隔で走らせた場合と、5両編成を15分間隔で走らせた場合の運行コストは同じ。そうなると、短編成で運行回数を増やしたほうが乗客の乗車機会は増える。
もっとも、これはゲームの場合で、実際の鉄道では運転士の人件費などがあるから、運行コストについては短い編成のほうがちょっと割高だ。それでも大きな差がないのであれば、あるいは乗務員の数に余裕があるのであれば、短編成で運行回数増の対応が正しい。これは国鉄時代に広島・岡山地区で行われた。その後大幅な減便も行われるなど試行錯誤が続いているようだ。東海道新幹線はすべて16両編成だけど、山陽新幹線は短い編成の列車も多い。これも、短編成で運行回数を増やす施策である。
通勤電車は満員のほうが嬉しい
どこかの大都市の首長が「満員電車ゼロ」などと公約したらしいけれど、とんでもない話だ。極悪非道な鉄道経営者の私は、通勤電車の乗車率が高いほど嬉しい。満員電車が最も儲かるからだ。ただし、満員電車を走らせた場合、ホームにお客さんを積み残しているかもしれない。そのお客さんが列車を諦めてしまうと機会損失になる。これは看過できないから、ほどほどの混み方になるように増発しておく。
ゲームでは痴漢は発生しないし、気分が悪くなる乗客もいない。スマホ歩きで線路に落ちる乗客もいない。これらは満員電車よりやっかいだ。やっぱり満員電車は利用客の幸せにならない。実際の鉄道会社にはこんな極悪な経営者はいないと信じたい。
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