スポーツ界はテクノロジーでどう変わる?:2020年の東京五輪に向けて(2/2 ページ)
2016年に開催されたリオデジャネイロ五輪で、日本選手団は史上最多となる41個のメダルを獲得した。成功の要因のひとつに、「テクノロジーを活用したデータ分析があったから」とも言われている。2020年の東京五輪に向けて、2017年もテクノロジーとスポーツの融合は進むのだろうか。日本スポーツアナリスト協会の年次カンファレンスから、今後のヒントを探る。
女子バレーボールに見るAIの可能性
「AIはスポーツをどう変える?」と題するセッションでは、スポーツ用AIの開発などを手掛けるLIGHTz代表取締役の乙部信吾氏、元女子バレーボール選手の杉山祥子氏、女子バレーボール日本代表チームのアナリストを担当する渡辺啓太氏が登壇。スポーツ界にAIを導入する際の課題点について持論を展開した。
渡辺氏によると、女子バレーの日本人選手は、世界のトップチームの選手よりも平均身長が約10センチ低いという。そこで、代表チームでは比較的早い段階の2000年代前半からデータ分析を導入。体格差を補う戦術の考案につなげてきた。
「04年から、試合会場にはアナリストが常駐し、選手がボールに触れるたびに、ボールを打った選手名、レシーブやスパイクなどプレーの種類、打球方向の3点をコード化してPCに入力している。ミスが増えるなどパフォーマンスが低下している選手を可視化できるため、監督は選手交代の判断材料や、不調な相手選手を狙うなどの作戦を立てる際の参考資料にできる」(渡辺氏)
渡辺氏は今後、過去の相手選手のデータを機械学習し、プレーのシミュレーションなどに役立てるため、AIによる機械学習の導入を検討しているという。
AIは「目に見えないプレー」の大切さが分からない?
一方の乙部氏は、「現在のAIには、『目に見えないプレーの重要性を理解しない』という課題があり、導入は難しいのではないか」と課題を指摘する。
「効率よく試合で勝つことを最優先に考える現行のAIは、野球の送りバントのようなプレーを不要と判断する。走者を進めるために打者を犠牲にするのは統計的に非効率で、ヒットやホームランを狙ったほうが得点の確率が高いという計算によるものだ。しかし野球界では、送りバントは重要な戦術とされている。バントが成功することで、応援が盛り上がってスタジアムの空気が変わったり、投手にプレッシャーがかかったりと、数値では分からない要素が試合展開に大きく影響するからだ。こういったプレーの重要性は、今のところ人間にしか理解できない」(乙部氏)
“目に見えない要素”の重要性が分からないというAIの弱点を克服するために、乙部氏は、トップ選手の戦略や思考をもとに教師データを取得し、AIに学習させることを提案。この意見を踏まえ、元代表選手の杉山氏は「味方がサーブを打つ動作に入った際、相手選手の重心移動を計測してくれると実戦で役立つ。相手の次の動きを読み、苦手なコースに配球できる」「サーブをクイック気味に打つなど、プレーのリズムを変えた際の相手の反応速度を知りたい。プロ選手は、効果的な“間の使い方”を探ることも重要」と元選手ならではの目線で、試合中の“目に見えない要素”を可視化するパラメータを提言した。
乙部氏は「『AIによって人の職が奪われる』といわれているが、スポーツ界では人間がAIを効率よく活用することが良い結果につながるのではないだろうか」と述べ、セッションを締めくくった。
2017年は、スポーツで使用されるテクノロジーにも要注目
17年は、柔道の「グランドスラム・パリ」、バレーボールの「FIVBワールドグランプリ2017」、野球の「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」、サッカーの「ワールドカップ アジア最終予選」など、さまざまなスポーツの国際大会が行われる。競技を観戦する際は、使用されるテクノロジーに注目してもよさそうだ。
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