10速オートマの登場、まだまだ消えないMT車:池田直渡「週刊モータージャーナル」2016総集編(3/4 ページ)
2016年も間もなく終わる。そこでこの1年を締めくくるべく、「週刊モータージャーナル」の連載記事で好評だったものをピックアップしたい。
クルマは本当に高くなったのか?
結論から言ってしまえば、クルマが高くなったのではなく、日本人の所得がどんどんダウンしているので、クルマを割高に感じるようになっているのである。1995年の名目賃金を100としたときに、2012年の米国の賃金は180.8。ユーロ圏の賃金は149.3。ところが、日本だけ87.0へと目減りしている。
1995年を基準に言えば、米国の賃金は日本の倍になっている。この間日本国内は深刻なデフレが進行しているので、ドメスティックな商品はどんどん値下がりしている。牛丼が370円などと言うのはOECD(経済協力開発機構)加盟国の中では最貧国レベルであり、明らかに不当に安い。日本人は日本人の労働を不当に低く評価することでどんどんデフレを加速させてきたのである。
良質なサービスを安い賃金で提供される状況にすっかり慣れてしまっているのだ。企業は適正な賃金を支払わず、消費者は適正な対価を支払わない。製品やサービス、労働のクオリティを正しく評価し、対価を支払える人が減ったことがその原因であることはほぼ間違いない。
そんな中でグローバル商品である自動車は否応なく世界の価格に合わせて開発されていく。だから日本のデフレ慣れの分だけ高く感じられるのである。
スポーツカーにウイングは必要か?
これは「Yahoo! ニュース」のコメントを見てとてもがっかりした原稿だった。スポーツドライブと言えば危険運転、ウィングと言えば、猛烈な駆動力を掛けられたタイヤのグリップ最大値を上げるために路面に押し付ける役割だと思い込んでしまっている人が多すぎる。
ハンドリングというのは時速20キロで走っていても成立するし、60キロで真っ直ぐ走っていても成立する。むしろ本来はそういうときのハンドリングが大事なのだ。この記事の主題は、サスペンションの機械的ジオメトリーでのセッティングは万能ではなく、速度域別の性格を作り出すことができないこと、そしてその補正こそが空力パーツの役割であることを書いた。
つづら折りの山道には、数十メートルでほとんど180度向きを変えるような低速の急コーナーがある。こういうところをしっかり曲がるには、サスペンションは曲がりやすく仕立てるしかない。しかし良く曲がるように仕立てられたサスペンションは、高速道路を時速80キロで流しているときにも曲がりやすい。路面のうねりで進路が変わるのだ。速度域が上がると敏感なことは神経質なことに直結する。空力パーツはこれを補正する役割を持っているのだ。
この連載で繰り返し書いているように、前輪は機動性、後輪は直進安定性を担う役割がある。だから前輪を押し付けると曲がりやすくなり、後輪を押し付けると真っ直ぐ走りやすくなる。市販車のリヤウィングは、後輪を押し付けてクルマの直進安定性を高くすることを目的に装着されている。
裏返せば、リヤウィングで高速安定性を確保できるからこそ、低速で良く曲がるサスペンションセッティングができるのである。
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