10速オートマの登場、まだまだ消えないMT車:池田直渡「週刊モータージャーナル」2016総集編(4/4 ページ)
2016年も間もなく終わる。そこでこの1年を締めくくるべく、「週刊モータージャーナル」の連載記事で好評だったものをピックアップしたい。
ホンダNSX 技術者の本気と経営の空回り
NSXはホンダの経営に何をもたらすのかよく分からないクルマだし、もっと言えば、それを長期にわたって続けていく事業継続性について何もプランがない。ホンダの経営的問題点を象徴するようなクルマである。しかし一方で、技術的には従来のクルマの常識を超える大変挑戦的な意欲作でもある。
まずは駆動装置だ。エンジンはV6 3.5リッター・ツインターボで、エンジンとトランスミッションの合わせ目にモーターが挟み込まれる。さらに、前輪にも左右独立した2つのモーターを装備。つまり動力はエンジンと3つのモーターということになる。しかも4輪それぞれに駆動力を配分し、駆動力で旋回させる。クルマの前2輪だけを取り出して見たとき、右タイヤを駆動し、左タイヤを止めれば左に曲がる。運動会の行進で内側の人は足踏みし、外側の人は大股で早歩きをするのと同じだ。内外輪の軌道長の差を駆動力で意図的に作り出してやることでクルマを曲げる。これは自動車の歴史を覆す新手法だ。
しかし、これをやるにはシャシーの強度が問題になる。一輪だけブレーキを掛けたり駆動力を掛けたりすれば、シャシーがキツくなるのは当然だ。しかもスポーツ性能を考えればシャシー重量は増やしたくない。ハイブリッドと四駆システムでただでさえ重量は増えているのだ。
NSXでは、高価なアルミ押し出し資材を大量に投入するとともに、アブレーション鋳造という特殊な手法を用いた。砂型に溶けたアルミを流し込み、アルミが冷える前に砂型をジェット水流で吹き飛ばす。急冷による素材の熱変化を利用して部材をより硬化させる特殊な鋳造法だ。これにより複雑な形状で、粘り強く、破断強度の高い部材が作れる。この部材でサスペンションマウント部鋳造して、アルミ押し出し材の間に接ぎ木のように挟むことで、フレームに直接サスペンションを組み付けることに成功した。衝突安全性とサスペンションの位置決め問題を同時に解決する素晴らしいアイディアだ。
素晴らしいエンジニアリングと、それを継続していく戦略の無策。NSXにはそれが両方存在している。
さて、今年のベスト5記事はいかがだったろうか。引き続き2017年も、自動車産業が盛り上がり、日本経済が少しでも良くなるために記事を書き続けていこうと思う。自動車ユーザーと、自動車メーカーがともに幸せになれるように、良いものは良い、ダメなものはダメ。是々非々を貫いていきたいと思う。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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