伊豆大島が「ゴジラ」に頼る、残念な思考:スピン経済の歩き方(1/7 ページ)
伊豆大島で「ゴジラ像」の設置計画が進んでいたが、住民の反対によって白紙撤回に。「ハコモノ」をつくりたがる自治体と、有効な税金の使い方を求める住民の対立はよくある話じゃないかと思われたかもしれないが、この騒動の本質はそこではない。何かというと……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。
2016年末、「これからの日本」を暗示するような騒動が起きた。
伊豆大島(東京都大島町)で「観光振興の起爆剤」として巨大な「シン・ゴジラ像」の設置計画が進んでいたが、住民の4分の1にあたる2100人分以上の反対署名が寄せられて白紙撤回されたのである。
一番の理由はカネだ。「伊豆大島火山博物館」の敷地内に設置される計画だった像の高さは土台を含めて約12メートル。足元からはミストが噴出し、夜はライトアップされて劇中で大暴れしたときのように背中からレーザー光線を発し、口から火を吐くという東京・お台場の等身大ガンダム像を彷彿とさせる演出を想定していた。
これだけのことをやれば当然、費用はかさむ。東宝へ支払う版権も含めた総事業費は約1億9000万円。さらに維持費として年間600万円が流れていく。町としては、5年間で観光客が約3万人増え、6億5000万円の経済効果をもたらすとソロバンをはじくが、「本当に町が潤うのか」「そんなお金があるなら医療や福祉を充実して」などの声があちこちからあがったのである。
「ハコモノ」をつくりたがる自治体と、有効な税金の使い方を求める住民の対立なんて、昔からよくある。これのどこが「これからの日本」なのさ、と首を傾げる方も多いだろうが、実はこの騒動の本質はそこではない。伊豆大島が直面している問題を端的に言うと、「人口減少」と「基幹産業がない」という2つに集約される。
2016年3月の「大島町まち・ひと・しごと創生総合戦略」によると、大島町は毎年総人口比1%の割合という急速なスピードで人口が減っており、2010年には「過疎地域」に指定されている。
老年人口比率は31.7%。若者の多くは島から出てしまうので、20代の労働力人口が極端に少ない。2010年時点で町の主たる労働力となっている55歳〜64歳世代の方がリタイアをすると、ガクンと働き手がいなくなる。
一方、その人口減を補うような産業があるかというと、かなり厳しいのが現実だ。全国平均からすると、漁業や農業という第一次産業に従事している方の割合が多いので、ここも高齢化で先細りだ。製造業で従事するのは町で100人ほど。男性の多くは建設業に卸業・小売業、女性の多くは宿泊・飲食、医療・福祉という典型的な「基幹産業のない地方の町」の様相を呈している。
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