伊豆大島が「ゴジラ」に頼る、残念な思考:スピン経済の歩き方(3/7 ページ)
伊豆大島で「ゴジラ像」の設置計画が進んでいたが、住民の反対によって白紙撤回に。「ハコモノ」をつくりたがる自治体と、有効な税金の使い方を求める住民の対立はよくある話じゃないかと思われたかもしれないが、この騒動の本質はそこではない。何かというと……。
「観光」と「おらが村自慢」をゴチャマゼに
「観光」には革新的な先端技術は必要ない。大規模な工場もいらない。歴史的建造物、伝統文化、自然などその地域にしかない「観光資源」を掘り起こし、観光客を受け入れるだけの整備を行えば、宿泊、飲食、土産物や名産品などの小売、タクシー、観光ガイドなど幅広い雇用を生む。「基幹産業のない人口減少社会」にとって、実現のハードルが低いうえ、実利も多い産業なのだ。
そういう意味では、大島町が「観光振興の起爆剤」を模索しようというのは、ごく自然の流れというか極めて真っ当な判断だと思う。ただ、そこで1億9000万円の「シン・ゴジラ像」にすがってしまうあたりがマズい。これまで我が国における「観光の産業化」を妨げてきた問題がモロに露呈してしまっているからだ。
それはズバリ言わせていただくと、「観光」と「おらが村自慢」をゴチャマゼにしてしまっている問題だ。
そもそも、伊豆大島にシン・ゴジラ像ができるというニュースを耳にした方の多くは、「なんで?」と首をかしげたのではないか。映画でゴジラは東京湾から上陸して、多摩川河川敷で陸上自衛隊と一戦を交え、最後は東京駅で朽ち果てた。ぶっちゃけ、「伊豆大島」と聞いてすぐに「ああ、ゴジラの島ね」と連想する人はマイノリティではないだろうか。
しかし、伊豆大島の観光関係の方たちはそういう認識ではない。実は1984年の映画では、ラストでゴジラが三原山の火口に落ちて、89年の映画ではそこから復活を果たしていることで、地元では「三原山=ゴジラの聖地」という位置付けなのだ。
このイメージをさらに広めようということで、大島町は「伊豆大島ゴジラアイランド化計画」を立案。国から地方創生加速化交付金がいただけるという運びとなり、じゃあヒット映画にあやかってシン・ゴジラ像を建てましょう、という流れになったのである。
「伊豆大島って言ったらやっぱゴジラだよね」という声が島の外から多数寄せられたので、多額の投資をしてでもゴジラ像をつくろうという話になるのなら分かる。が、経緯を見るとどうもそういうわけではなく、「30年前の映画の舞台になった」というかなりビミョーなところを拠り所にして猛プッシュをしているようなのだ。
関連記事
- 「日本の鉄道は世界一」という人がヤバい理由
「鉄道が時間通りに到着するのはスゴい!」といった声を耳にすることがあるが、筆者の窪田氏はこのような自慢をし始めると「ヤバいのでは」と警鐘を鳴らしている。なぜ、ヤバいのか。 - だから日本経済の生産性は「めっちゃ低い」
日本の1人の当たりのGDPが低い。「生産性が低い。もっと高めよう」といった話をすると、「日本人はチームプレーが得意なので1人当たりのGDPなど意味がない」といった反論も。なぜ科学的根拠のない意見が飛んでくるのか。その背景には、戦前からある「戦争学」が影響していて……。 - 「石原さとみの眉が細くなったら日本は危ない」は本当か
女優・石原さとみさんの眉がどんどん細くなっている。彼女のファンからは「そんなのどーでもいいことでしょ」といった声が飛んできそうだが、筆者の窪田さんは「日本経済にとって深刻な事態」という。なぜなら……。 - 「日本は世界で人気」なのに、外国人観光客数ランキングが「26位」の理由
日本政府観光局によると、2014年に日本を訪れた外国人観光客は2年連続で過去最高を更新した。テレビを見ると「日本はスゴい」などと報じているが、国別ランキングをみると、日本は「26位」。なぜ外国人たちは日本に訪れないのか。その理由は……。 - 日本人のここがズレている! このままでは「観光立国」になれません
「訪日客が1300万人を突破」といったニュースを目にすると、「日本は観光立国になったなあ」と思われる人もいるだろうが、本当にそうなのか。文化財を修繕する小西美術工藝社のアトキンソン社長は「日本は『観光後進国』だ」と指摘する。その意味とは……。 - 「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっている。売り上げが低迷している着物業界にとっては千載一遇かもしれないが、浮かれていられない「不都合な真実」があるのではないだろうか。それは……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.