伊豆大島が「ゴジラ」に頼る、残念な思考:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
伊豆大島で「ゴジラ像」の設置計画が進んでいたが、住民の反対によって白紙撤回に。「ハコモノ」をつくりたがる自治体と、有効な税金の使い方を求める住民の対立はよくある話じゃないかと思われたかもしれないが、この騒動の本質はそこではない。何かというと……。
地域の「観光資源」はどこにあるのか
「観光産業」というのは、北朝鮮のバカでかい将軍様のようにシンボル像などつくらなくても、その土地がもつ「観光資源」を整備するだけでもかなり効果がでる。例えば、伊豆大島には度重なる噴火の火山灰、砂礫(されき)が作り出した「裏砂漠」という黒い砂漠がある。まるで火星のような不思議な風景だが、観光客は延々と歩いて到着し、写真を撮って帰るだけだ。
カタールなどの砂漠ツアーのようにランドクルーザーを走らせろまでとは言わないが、バギーや自転車、あるいは馬などのツアーを整備して、体験ができるように整備すべきだ。
そういう意味では、高さ30メートル、90層から成るバウムクーヘンのような「千波地層断面」も同じだ。ここは伊豆大島のガイドブックに必ず紹介される景勝地でありながら、「立入禁止」の立て札があるだけで、まったく観光地化されていない。
ここもレンタカーや観光バスで訪れて、「へえ」と見上げて帰るだけで観光客は1円も金を落とさない。この断層でクライミングができるというのなら観光の目玉になることは間違いない。触っていけないというのなら、ハシゴ車のようなものや見学棟を立てて、お金を払った観光客は、迫力満点の地層を眼前に楽しめるという「ビジネス」にすべきだ。
また、三原山の頂上では、1951年に溶岩流で形成された三原ホルニトケイブという世界的にも珍しい洞窟があるが、こちらも調査研究のために年に数回しか公開されない。つまり、伊豆大島には、この地にしかない素晴らしい「観光資源」がまだ手つかずのままゴロゴロしているのだ。
「観光振興の起爆剤」というのなら、地域の政治家はシン・ゴジラ像のようなハコモノの予算を引っ張るのではなく、「立入禁止」と「保護」でがんじがらめになっている文化財や自然遺産を「観光資源」として利活用し、地域の人々に「カネ」がもたらされるような規制緩和を進めなくてはいけないのだ。
ただ、ここでひとつ問題がある。地域の政治家はもちろん観光業者ですら、自分たちの地域の「観光資源」がどこにあるのか分からないということだ。確かに、自分自身を俯瞰(ふかん)して分析するというのはかなり難しい。
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