「列車の動力」革新の時代へ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」2017年新春特別編(5/5 ページ)
2017年3月ダイヤ改正は新幹線開業などの大きなトピックがない。しかし、今後の鉄道の将来を見据えると「蓄電池電車」の本格導入に注目だ。地方の非電化路線から気動車が消える。大都市の鉄道路線から架線が消える。そんな時代へのステップになるだろう。
国鉄型気動車の老朽化対策はJR全社の課題
2017年ダイヤ改正時期には間に合わないようだけど、JR東日本は「電気式気動車」を準備中だ。これはディーゼルエンジンで発電し、その電力でモーターを回す。蓄電池を搭載しないためハイブリッド方式ではない。これは車両の製造コストを下げるためだろう。運行本数の少ない線区では、ハイブリット化による低燃費よりも、車両コストを下げた方が総コスト面で有利と思われる。
JR東日本の電気式気動車は、2017年度から2019年度にかけて新潟地区の磐越西線、米坂線、羽越本線に投入し、2020年度に秋田・青森地区の奥羽本線、五能線、津軽線に投入する。1両編成を19両、2両編成を22編成で44両の新造だ。国鉄時代に製作されたキハ40系気動車を置き換える。
JR北海道もJR東日本と同じタイプの電気式気動車を投入予定だ。2017年度に寒冷地向け試作車1編成2両を投入し、2冬期間の試験運用を実施。2019年から量産車を投入する。国鉄時代に製造された約140両のキハ40形を一掃する。新形式車両は運行本数の間引きや廃止、バス転換を見越して、製作総数は140両より少ない見込みだ。
JRグループの連携が活発化
JR東海は蓄電池車両や電気式気動車の情報が見当たらない。企業動向としてリニア中央新幹線や東海道新幹線の改修に重点を置いているからだ。非電化路線も少なく、非電化区間向けに新動力車両を開発しても量産効果が得られない。2015年度までに国鉄時代の気動車は一掃されており、既存タイプの気動車の新製で十分と言えそうだ。高山本線、紀勢本線のような長距離非電化区間もある。長距離列車に適用されるまで技術の進捗を待つという考え方もある。
しかし、参宮線、太多線など、蓄電池電車の特性を生かせる路線はある。もしかしたら、JR東海が他のJRグルーブが手掛けた新動力車両を導入する可能性もありそうだ。
その良い例がJR東日本とJR九州の連携だ。ハイブリッド車両、蓄電池車両についてはJR東日本に一日の長がある。しかし、男鹿線に導入するEV-E801系は、JR九州が若松線向けに開発し、日立製作所が製造した「BEC819系」の耐寒仕様車である。これは、従来のJR東日本の蓄電池車両が直流電力で充電する方式に対して、JR九州は交流電力で充電する方式だから。JR東日本としては、改めて交流電力タイプを開発するよりも、JR九州の開発結果を得た方が合理的だ。
鉄道総合技術研究所が開発し、近畿車輛が製造した「クヤR291-1」は、車体がJR西日本の通勤電車223系、台車がJR東日本のE231系である。ここもJR間の連携がある。JR北海道はJR東日本が開発した電気式気動車を導入するし、JR四国はJR西日本などに走行試験の場を提供している。将来的には試験した車両の導入も視野に入れているとみられる。
2017年はJR東日本の「トランスイート四季島」、JR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風」がデビューする。この2つのクルーズトレインは、駆動方式に多少の違いがあるとはいえ、どちらもディーゼルエンジンとモーターを併用し、電化区間と非電化区間の両方を走行できる。この技術は非電化区間の特急列車に転用できそうだ。
JRグルーブにとって、国鉄時代からの旧型気動車の老朽化は早急に解決すべき問題だ。鋼鉄製車体のため重量も大きく、エンジン出力も小さい。更新工事やエンジンの換装を実施した車両もあるとはいえ燃費も悪い。この問題を解決するために、JR各社が新型車両に取り組んでいる。
日本の非電化路線において気動車は衰退し、蓄電池方式やハイブリット方式による「電車化」が普及していく。後に振り返るとき、2017年は「列車の動力革新」の転換点になるだろう。
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