なぜフジテレビの「FOD」は急成長中なのか?:動画配信だけではない(1/3 ページ)
海外プレイヤーが参入するなど、競争が激化する日本の動画配信サービス市場。そうした中でフジテレビが運営する「FOD」が好調だ。その理由とは……。
2004年から7年連続で年間三冠王に輝くなど、かつてテレビ業界の王座に君臨していたフジテレビがもがき苦しんでいる。
2015年上半期に初の営業赤字を計上。2016年上半期は一転して営業利益が23億500万円となったものの、売上高は前年同期比1.7%減の1441億6500万円。16年通期でも売上高2883億円、営業利益75億円と業績予想を当初の数字から下方修正するなど、いまだ大幅な収益改善には至っていない。
そうした中で気を吐くのが、デジタル事業部門が手掛ける動画配信サービス「FOD(フジテレビオンデマンド)」だ。
FODは動画配信、ライブ配信、雑誌やコミックなどの電子書籍を1つのプラットフォームで提供するのが特徴だ。2005年にスタートした同サービスは、長らく赤字続きだったが2014年度に黒字転換。売上高も右肩上がりで2016年度は2012年度の約6倍を見込む。現在のユニークユーザー数は300万人、有料会員は80万人に上る。
今まさに動画配信サービスは群雄割拠だが、そうした中でなぜFODが好調なのか。「コンテンツの量ではなく独自性や質の高さで勝負しているから」だと、FODの統括責任者であるフジテレビ コンテンツ事業局 コンテンツ事業センター コンテンツデザイン部の野村和生副部長は力を込める。
数年前に動画配信サービス市場が急成長したとき、多くのサービス事業者は、どんなコンテンツがあるのかというよりも、ラインアップ本数をウリにしていた。ところが、2015年9月に世界最大手の米Netflixが日本市場に参入。ドラマシリーズ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』に代表されるオリジナルコンテンツが大ヒットし、今では独占的なラインアップを持つサービスがユーザーから求められつつある。そうした中にあってFODはずっと独自性を重視してきた。
「現在、動画配信サービス市場は約1500億円、2020年には2000億円になると言われているが、一方で既に淘汰が始まっていて、会員数を減らしているサービスもあると聞く。今後の生き残りはオリジナルコンテンツを持っているかどうかだと思う。それがなければ価格の安さでしか勝負できないのではないか」(野村氏)
FODはテレビ局の強みを生かして、フジテレビで放送された過去の人気ドラマやバラエティ番組に加えて、FODオリジナルの番組を制作、配信する。
さらに、民放各社の競合サービスに先駆けて、2012年4月にスマートフォンに対応したことも成長の要因だという。フジテレビ内でも動画はPCなどの大画面で視聴するという固定観念があり、スマホシフトへの抵抗があった。しかしながら、今後のスマホ普及を考えると、そのデバイスに対応していなければユーザーの利便性は損なわれると当時の担当者は判断し、経営層を納得させてシステム開発投資を続けてきたのである。今となってはスマホやタブレット端末で視聴できない動画サービスは、ユーザーの箸にも棒にもかからないのは自明の理である。
2016年8月には「FODプレミアム」をスタート。これは月額888円(税別)で動画だけではなく雑誌コンテンツも見放題できるサービスで、このお得感がユーザーのさらなる獲得促進につながっている。
関連記事
- なぜテレビ局はダメになったのか? 変わる視聴率競争
テレビ局を取り巻く経営環境は厳しさを増している。この背景には、長年にわたりテレビ局と「蜜月の関係」を築いてきた広告代理店が彼らを見限り始めていることが大いに関係するという……。 - マネジメントの甘さをさらけ出したDeNA騒動
DeNAのキュレーションメディアをめぐる騒動は、マネジメントの観点から見てどこが問題なのか。これまでさまざまな企業の不祥事を取材してきた筆者なりに5つのポイントを挙げたい。 - TBSラジオ「14年10カ月連続聴取率トップ」強さの理由は──「真面目さ」
89期連続、首都圏個人聴取率で首位の座に立ち続けているTBSラジオ。強さの秘けつをインタビューした。 - テレビは苦戦しているのに、なぜWOWOWは過去最高なのか
テレビ局の厳しい戦いが続いている。視聴率が低迷し、広告費が落ち込む……。そんな状況の中で、有料放送「WOWOW」が好調だ。加入件数は過去最高を突破し、大台の300万件も近づいてきた。その要因について、同社の担当者に聞いた。 - 東京五輪を“VR席”で見る時代がくる? VRが変える新しいテレビのカタチとは
近い将来、VRが今よりも普及したとき、映像コンテンツの楽しみ方はどのように変わっていくのだろうか――360channelが展開する「VRテレビ局」の可能性について、同社でプロデューサーを務める中島健登氏から話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.