すべては笑顔のため「鉄旅オブザイヤー'16」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
2016年に開催された鉄道旅行商品を表彰する「鉄旅オブザイヤー2016」の表彰式が行われた。今年はDC賞、ベストアマチュア賞も創設されて盛り上がった。受賞を逃した作品にも素晴らしい企画があった。審査は楽しく、そして悩ましいところもある。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
「鉄旅オブザイヤー」は今回で6年目。第1回表彰の対象となった2011年は九州新幹線が開業し、青森から鹿児島まで新幹線がつながった。「指宿のたまて箱」などJR九州の観光列車の注目もあり、消費者の鉄道旅行への関心が高まっていた。一方、同年3月11日の東日本大震災によって「日本を元気にする旅」「復興ツーリズム」としても鉄道が注目された。
2016年は熊本地震があった。政府は「九州観光支援のための割引付旅行プラン助成制度」を創設。旅行消費について社会的からも期待された。そこでも鉄道の役割は大きい。しかし、鉄道もまた受難の年であった。JR北海道の路線の多くは廃線の危機に立たされ、新幹線開業後の並行在来線の負担で自治体は苦渋する。その活路としても鉄道旅行は期待されている。
そんな堅い話ばかりだけではなく、素直に「鉄道の旅は楽しい」をアピールする場としても「鉄旅オブザイヤー」の役割は大きい。旅行会社のプランナーたちが、鉄道という素材で旅を表現する。ゆえに私たち審査員は「旅行商品」ではなく「旅行作品」として評価する。2016年の応募総数は過去最大の106作品となった。受賞作品を振り返ってみよう。
恒例の受賞者記念撮影。今年は館内ターンテーブルのC57形の前で。昨年まではノースウィングのキハ11形の前だった。司会は鉄道好きタレントのダーリンハニー・吉川正洋さん、鉄道好き女子アナウンサー・久野知美さん。久野さんのマネージャー、南田裕介ホリプロマネージャーは審査員の一人。アトラクションコーナーを盛り上げる
グランプリは「ながまれ海峡号」
グランプリとなった作品は日本旅行の「赤い風船 観光列車『ながまれ海峡号』に乗ろう」だ。函館発着の木古内駅往復列車で、5月から10月までの週末を中心に12回開催された。供食サービスがユニークで、海鮮丼に見立てたケーキ「スイーツ丼」、茂辺地駅ホームでバーベキューなど繊細かつ大胆。旧型車両改造車の窓が開くという特徴を利用したホームの立ち売りなど懐かしさも演出した。料金は平均9000円。盛りだくさんの内容で、日帰り旅行として手ごろな価格だ。販売実績は300万円。
「ながまれ海峡号」は、赤字必至の並行在来線の活性化、地域とのかかわり、旅行会社と鉄道会社の役割分担という意味で、観光列車のビジネスモデルとしても注目に値する。私の評価もそこにあった。詳しくは運行前に紹介した記事をご覧いただきたい。
準グランプリは読売旅行の「長崎・雲仙仁田峠ミヤマキリシマと「幸せの黄色い王国」福袋付きカーネション列車と島原半島7大ご当地グルメ食べ比べ」だ。舞台は九州の島原半島と島原鉄道で、5月に4回開催された。雲仙普賢岳噴火災害25年を節目とした町おこしプロジェクトだ。島原鉄道の黄色い車両に注目。しあわせの黄色いハンカチにあやかって、「しあわせの黄色い列車王国」を宣言。その旗揚げとなるツアーだった。
島原半島瑞穂地区はカーネーションの産地であり、母の日をテーマとして女性へ訴求。時期的にも仁田峠にある約10万本のミヤマキリシマが見ごろとあって好評だったとのこと。九州各県からのバスツアーとして開催され、平均価格帯は8980円。バス12台、461人を集客した。アドバイザーとして元山形鉄道公募社長、現日本観光鉄道社長の野村浩志さんが参画した。前述の通り、鉄旅オブザイヤーの設立には「災害復興」「旅で日本を元気に」という意味もあり、賞の趣旨にもふさわしい作品だった。
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