なぜヤンマーはカキ養殖に取り組むのか?:くにさきOYSTERの挑戦(1/4 ページ)
産業機械メーカーのヤンマーがカキの養殖に取り組んでいる。しかも産地は、これまでカキの生産実績がなかった大分県国東市だ。ヤンマーがカキ養殖に乗り出した理由、そこにはある男の強い思いがあったのだ。
カキの旬、真っただ中である。
昨今、日本でもオイスターバーなどが増えていて、新鮮な生ガキなどを手軽に口にする機会は多いが、ちょっと思い浮かべてほしい。店で提供されるカキの多くは大ぶりで肉厚なものではないだろうか。
元々、カキフライや鍋物の具材など、加熱して食べる文化が日本では根付いているので、多くはむき身で流通していて、食べ応えのある大きいものが好まれる傾向にあった。一方、欧米でカキと言えば生食が主流。しかもサイドメニューとして食べることが多いので、殻付きで小ぶりのタイプが一般的である。
そうした背景から、日本のカキ生産者の多くは、できるだけカキが大きくなるように生育してきた。その結果、たとえ品質に優れていても小さなカキは業者などからほとんど見向きされないという状況が生まれてしまった。「大きくなければカキは売れない」と話す生産者もいるほどだ。
そうした中、あえて小ぶりでフレッシュな味わいの生食向けカキを生産して、日本の食文化に新風を吹き込もうと力を入れているのがヤンマーだ。
「ヤンマーがカキ作り?」と驚いた人もいるだろう。ヤンマーは農業機械や船用エンジンなどを手掛ける産業機器メーカーとして知られるが、実は数年前からカキの養殖に取り組んでいて、2015年末から東京都内のオイスターバーやレストランを中心に本格的な出荷を始めているのだ。現在の出荷量は週に5000〜1万個に上る。
ヤンマーがカキ養殖を始めた理由
大分県国東(くにさき)市――。
県北東部に位置する国東半島のほぼ半分を占めるこの地域では、以前から太刀魚(たちうお)やタコなどの漁業が盛んだ。ただし近年は漁獲量が減少、2013年は1784トン(出典:農林水産省統計部)と、この20年間で半分以下に落ち込んだほか、後継者不足などもあいまって漁業全体は年々低迷を続けている。市としても地域活性化のための産業育成が喫緊の課題だった。
そうした中、これまで生産実績のなかった国東でカキの養殖を始めるとともに、カキの産地としてのブランド化にも乗り出した男がいる。ヤンマーの水産研究開発施設「マリンファーム」で所長を務める加藤元一氏だ。カキに携わることおよそ30年、自らを“カキばか”と呼ぶほど、カキを愛してやまない人物である。
マリンファームは1988年に国東市に開設。長らくカキの養殖技術や種苗技術の研究開発などを行っていた。そんな折、北海道で20年以上もカキの養殖技術開発などに打ち込んでいた加藤氏が縁あってマリンファームに入社してきた。2004年6月のことである。
そこからマリンファームでのカキに対する取り組みが一気に加速する。2006年にカキやアサリなど二枚貝の種苗生産に必要な餌料(じりょう)を商品化、2012年には生物餌料を活用して陸上生産した二枚貝種苗の販売事業を開始した。
時を同じくして2012年、漁業の低迷に悩む国東市役所から市内のくるまえび養殖場跡地の活用方法についてヤンマーに相談が寄せられた。即座に加藤氏はカキの生産を提案。これまでヤンマーはカキ養殖の経験はなく、生産者に種苗を販売したり、海水ろ過システムを提供したりと、あくまで支援パートナーの立場だった。しかし、同社自身も従来のモノ売りからソリューション売りへとビジネスモデルを変革する最中にあって、生産者の立場で考えることが不可欠だと感じていたことや、漁業そのものの発展が自社のビジネス成長にもつながるといった考えから、実証実験を兼ねてカキ養殖に着手したのである。
ただし、その実現には地元の漁業者の協力が不可欠だった。それまでマリンファームは地元との接点はほとんどなく、しかもカキという国東にとって前例のない魚介類に挑戦するということで、漁業者を巻き込むハードルは高かったが、幸いなことに市役所がその橋渡しを積極的に買って出た。最終的にはカキ作りに専任で取り組んでくれる漁業者も見つかったのである。
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