観光列車の次のブームは廃線かもしれない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
岐阜県飛騨市、秋田県大館市、宮崎県高千穂町で廃止された鉄道路線を観光に生かす人々が集まり「日本ロストライン協議会」を設立する。鉄道趣味の1分野だった「廃線」が、城巡りに通じる新たな観光資源として注目されている。
鉄道ファン以外も楽しめる廃線観光施設
廃線歩きは、鉄道趣味の中でもマニアックな部類だろう。しかし、鉄道ファンではなくても、誰もが楽しめる廃線跡もある。
岐阜県飛騨市の「レールマウンテンバイク Gattan Go!!」は、旧神岡鉄道の廃線を利用したレジャー施設だ。自転車を2台並べ、廃線のレール上を走行可能とした乗りものだ。鉄道廃線跡は道路のような急勾配がなく、ローカル線の駅間は人里離れた風景だ。そこを自分の足を使って漕いで走る。サイクリングと違ってハンドル操作が要らないため、走行中も景色を楽しめそうだ。
宮崎県の「高千穂あまてらす鉄道」は、旧高千穂鉄道の線路を利用した遊覧鉄道だ。軽トラックを改造したトロッコ車両で、かつて終着駅だった高千穂駅から高千穂橋りょうまでを30分で往復する。高千穂橋りょうは国鉄時代、東洋一高い鉄橋として知られていた。水面からレールまでの高さが105メートル。レールの間から水面が見えるなどスリルも満点。鉄道営業時代は鉄橋上で停車し景観を見せるサービスもあった。2013年から黒字化し、2016年は年間2万5000人を集客した。
高千穂あまてらす鉄道はエンジン付きのトロッコ車両「スーパーカート」を運行する。いったん廃線となった線路を使っているとはいえ、将来の鉄道路線復活を目標としている(出典:高千穂あまてらす鉄道 Facebookページ)
秋田県大館市の「大館・小坂鉄道レールバイク」は、小坂製錬が運行していた鉱山鉄道の廃線跡を利用したレジャー施設だ。自転車改造車両や電動けん引車を使ったトロッコ車両がある。往復約2.7キロメートル。所要時間は30〜40分。小坂鉄道の廃線跡は、もう1つ、別の場所で小坂町が運営する「小坂鉄道レールパーク」もある。こちらは実際に使われていた車両が展示されており、ディーゼル機関車の運転体験もできる。また、ブルートレインの客車を使った列車ホテルがある。
これらの施設は、展望施設、体験型観光施設、乗りものアトラクションのような位置付けだ。鉄道をテーマとした遊園地のような感覚で、鉄道ファンだけではなく、デートコース、ファミリー層の行楽、グループ旅行の目的地になっている。廃線跡を使った観光施設の成功例と言えそうだ。このほかにも、北海道遠軽町の「丸瀬布いこいの森」、長野県上松町の「赤沢自然休養林」、兵庫県養父市の「明延鉱山」などで遊覧鉄道が運行されている。
関連記事
- 寝台特急「北斗星」の食堂車が授かった新たな使命
2015年3月に運行を終了した寝台特急「北斗星」。その食堂車が埼玉県川口市に移設され、レストランとして開業した。鉄道ファンのオーナー社長が趣味で始めた……と思ったら違った。その背景には高齢化社会と地域貢献に対する真摯(しんし)な思いが込められている。 - 「列車の動力」革新の時代へ
2017年3月ダイヤ改正は新幹線開業などの大きなトピックがない。しかし、今後の鉄道の将来を見据えると「蓄電池電車」の本格導入に注目だ。地方の非電化路線から気動車が消える。大都市の鉄道路線から架線が消える。そんな時代へのステップになるだろう。 - JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすな
JR北海道が自社で単独維持が困難な路線を発表した。総距離で1237キロメートル。単独維持可能な線区は1151キロメートル。それも沿線自治体の協力が前提だ。しかし本来、幹線鉄道の維持は国策でなされるべきだ。自治体に押し付けるべきではない。 - シベリア鉄道の北海道上陸に立ちはだかる根本的な問題
日本のロシアに対する経済協力について、ロシア側がシベリア鉄道の北海道延伸を求めたという。JR北海道は鉄道事業を縮小し、ロシアは極東という辺境へ線路を延ばす。その背景を探ると、どうやら日本と世界は鉄道に対する認識そのものに違いがありそうだ。 - 廃線危機から再生、「フェニックス田原町ライン」はなぜ成功したか?
福井県のローカル鉄道、福井鉄道とえちぜん鉄道が相互直通運転を開始して3カ月。乗客数が前年同期比2.9倍という好成績が報じられた。「幸福度ランキング1位」の福井県は、鉄道を活用して、もっと幸福な社会を作ろうとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.