観光列車の次のブームは廃線かもしれない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
岐阜県飛騨市、秋田県大館市、宮崎県高千穂町で廃止された鉄道路線を観光に生かす人々が集まり「日本ロストライン協議会」を設立する。鉄道趣味の1分野だった「廃線」が、城巡りに通じる新たな観光資源として注目されている。
廃線観光の課題は情報発信
乗りものがある場所、線路や駅舎跡が残る場所など、施設の形態はさまざまだ。廃線巡りは楽しい。しかし、現役の路線に比べると難度は高い。何しろ廃線になっているから鉄道では行きにくい。路線バスを利用できればいいほうで、バス便すらない場所もある。そもそも公共交通機関の利用者が少ないから廃線になるわけだ。
一昨年、岩見沢から富良野へレンタカーで移動中、三笠鉄道記念館の道しるべを見つけて、ここにあったか、と気付いた。もっと早く知っていれば、立ち寄る日程を組めたかもれない。しかし、事前に知ろうにも、廃線は時刻表の地図には載っていない。なぜなら廃止されたから。それに懲りて、別の記念施設の場所を調べて行ってみると、その日は休館日だったりする。
廃線観光の課題は情報の不足だ。施設が情報を提供したとしても、情報のあり処が分かりにくい。時刻表の地図には掲載されないし、ネット上でも探しにくい。「地名」「現役時代の鉄道名」「廃線」で検索すると、ようやく見つかる。しかし、そもそも「地名」や「現役時代の鉄道名」はあらかじめ知識がないと入力できない。
旅行業界大手の日本旅行は、廃線観光の需要を見込んだツアーを実施している。例えば、2015年に開催した「鉱石の道・一円電車保存車両を巡る『生野銀山・神子畑選鉱場跡&明延一円電車まつり 訪問の旅』」は、保存電車の運行日に合わせて貸し切りバスを活用し、情報と移動の不便を解消して好評だったという。このツアーは「鉄旅オブザイヤー2015」の審査員特別賞を受賞している(関連記事)。
施設側にも課題はある。廃線観光施設は各地に誕生し、新しいツーリズムとして認知され始めた。しかし、互いの交流が少なく経験や技術の共有ができていない。動かせそうな保存車両があっても修理できる人や技術がない。近隣の施設と連携した周遊コースを提案したい。鉄道の保存に対するとらえ方も施設によって違う。懐かしむための保存施設か、楽しむための道具にしたいか。
関連記事
- 寝台特急「北斗星」の食堂車が授かった新たな使命
2015年3月に運行を終了した寝台特急「北斗星」。その食堂車が埼玉県川口市に移設され、レストランとして開業した。鉄道ファンのオーナー社長が趣味で始めた……と思ったら違った。その背景には高齢化社会と地域貢献に対する真摯(しんし)な思いが込められている。 - 「列車の動力」革新の時代へ
2017年3月ダイヤ改正は新幹線開業などの大きなトピックがない。しかし、今後の鉄道の将来を見据えると「蓄電池電車」の本格導入に注目だ。地方の非電化路線から気動車が消える。大都市の鉄道路線から架線が消える。そんな時代へのステップになるだろう。 - JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすな
JR北海道が自社で単独維持が困難な路線を発表した。総距離で1237キロメートル。単独維持可能な線区は1151キロメートル。それも沿線自治体の協力が前提だ。しかし本来、幹線鉄道の維持は国策でなされるべきだ。自治体に押し付けるべきではない。 - シベリア鉄道の北海道上陸に立ちはだかる根本的な問題
日本のロシアに対する経済協力について、ロシア側がシベリア鉄道の北海道延伸を求めたという。JR北海道は鉄道事業を縮小し、ロシアは極東という辺境へ線路を延ばす。その背景を探ると、どうやら日本と世界は鉄道に対する認識そのものに違いがありそうだ。 - 廃線危機から再生、「フェニックス田原町ライン」はなぜ成功したか?
福井県のローカル鉄道、福井鉄道とえちぜん鉄道が相互直通運転を開始して3カ月。乗客数が前年同期比2.9倍という好成績が報じられた。「幸福度ランキング1位」の福井県は、鉄道を活用して、もっと幸福な社会を作ろうとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.