観光列車の次のブームは廃線かもしれない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
岐阜県飛騨市、秋田県大館市、宮崎県高千穂町で廃止された鉄道路線を観光に生かす人々が集まり「日本ロストライン協議会」を設立する。鉄道趣味の1分野だった「廃線」が、城巡りに通じる新たな観光資源として注目されている。
廃線観光の協力団体「ロストライン協議会」が発足
レールマウンテンバイク Gattan Go!!を運営するNPO法人 神岡・町づくりネットワークは、もともと鉄道に詳しいわけではなかった。「線路が残っているなら、何がおもしろいことができるかもしれない」という発想から神岡鉄道の廃線活用が始まった。元は鉱山鉄道だ。旧国鉄神岡線が赤字で廃止対象になったとき、親会社の鉱山が鉄道を引き取る形で1984年に神岡鉄道が発足した。しかし親会社の輸送計画の変更で2006年に鉄道から撤退。もともと住民の鉄道利用も少なかったため、情緒的な廃止反対運動は起きなかったという。
廃線で遊ぶレールマウンテンバイクが成功し、観光事業としての役割が大きくなった。全国から視察に訪れる自治体や事業者も増えている。廃線を観光に活用する地域は増えている。自分たちのノウハウが役立つかもしれない。お互いのアイデアを共有したい。そこで、もともと交流のあった高千穂あまてらす鉄道や大館・小坂鉄道レールバイクと話し合い、「日本ロストライン協議会」の設立に至った。設立総会は4月8日、公式サイトでは次のような趣旨説明がある。
各地域の取り組みを尊重し相互理解を深めつつ、この「ロスト・ライン・ツーリズム」の本質が理解できる旅人を育てるネットワークを築き、また、廃線を控えた地域での保存活動や利活用事業へのアドバイザーとしての役割を担い、それぞれの事業者の発足時の経験や経過を発信していきたい
NPO法人神岡・町づくりネットワークは、これまでの活動の間に、鉄道遺構にかかわっている20〜30程度の地域・団体と交流してきた。協議会として活動したいという下地はここにある。設立総会の案内状は80通以上。廃線や車両の保存だけではなく、現存する遺構はなくとも、思い出の写真展を開催するなどで活動する団体にも声を掛けている。会員募集は活動方針などが決まってから実施するという。
日本ロストライン協議会の設立総会は4月8日の「ロストラインフェスティバル in 神岡」と併せて開催。フェスティバルでは神岡鉄道の気動車「おくひだ1号」の復活運転なども行われる予定(出典:ロストラインフェスティバル in 神岡)
趣旨説明にある「廃線を控えた地域へのアドバイザー」とは微妙な書き方だ。廃線が決定した路線はともかく、廃線の恐れがある路線では存続活動が活発だ。余計な口出しをすれば、闘病中の患者に葬儀社が挨拶するようなもの。そのあたりをNPO法人神岡・町づくりネットワークに聞いてみた。
「もちろん、こちらからお声掛けすることはないです。しかし、実際に廃線間近な地域から見学の方がいらしたときには、お話を伺っています」
鉄道路線の廃止は残念だ。しかし、事実を受け止め、次の段階へと前向きに進もうとする動きもある。そんなときに、日本ロストライン協議会は頼れる存在になるだろう。
趣意書の文面を見る限り、協議会は利用者向けの情報発信が主目的ではないようだ。しかし、それぞれの地域で抱えた課題の中には利用促進もあるだろう。集客や発信について情報交換が行われ、利用者にも利点のある組織になると期待できる。廃線観光は旅行目的地の1つとして認知されていることは間違いない。旅行業界にとって新たなビジネスチャンスになりそうだ。
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