東芝は今後も迷走し続けるのか:“いま”が分かるビジネス塾(1/3 ページ)
東芝は分社化するメモリ事業の株式売却で、1兆円以上の資金を調達する方向で調整している。しかし、債務超過を回避して財務問題に一定のめどを付けたとしても、同社を取り巻く環境が大きく改善するわけではない。同社には、明確な戦略というものが存在せず、その状況は今も変わっていないからだ。
債務超過に陥った東芝。巨額損失の直接的な原因となったのは米国の原発建設プロジェクトだが、その背後にはもっと根深い要因がある。同社には、明確な戦略というものが存在せず、その状況は今も変わっていない。場合によっては、今後も東芝の経営は迷走が続く可能性が高いだろう。
当初から無理があった東芝のウェスチングハウス買収
東芝は2017年2月14日、16年4〜12月期の最終損益が4999億円の赤字になったと発表した。損失のほとんどは米原子力事業の減損で、損失額は7125億円に達する。12月末時点の株主資本は1912億円のマイナスで、同社は債務超過に陥っている。
また、今回明らかにされた損失額は正式に確定したものではない。のれん代の減損などについて監査法人との調整がついておらず、監査を通っていない「見通し」としてこの数字を発表した。今後、数値を精査した場合、損失額が変わる可能性がある。
これまでも東芝は二度にわたって決算発表を延期したことがあり、今回はこれで三度目である。なぜ損失額を確定することができないのか、疑問に思っている人も多いだろう。これは、東芝経営陣の当事者能力のなさや、たび重なる不祥事で社内がガタガタになっていることなどが主な原因だが、問題となっている部分が、原子力事業の「のれん代」という会計上のバーチャルな資産であることも影響している。
事の発端は、同社が06年に米国の原子力企業ウェスチングハウス(WH)を54億ドル(当時のレートで約6400億円)というかなりの高額で買収したことである。当時の東芝は家電やPCなど各部門の不振が続き、成長シナリオを描けない状況にあった。そのようなとき、名門原子力企業であるウェスチングハウス売却の話が持ち込まれ、東芝は渡りに船とこの案件に飛びついた。
当時、ウェスチングハウスの買収には三菱重工も名乗りを上げていたが、東芝が提示した価格があまりにも高く、買収を断念した経緯がある。買収価格の部分で、当初からかなり無理な案件だった可能性が高い。
技術的な面でも同様である。東芝はもともと米GE(ゼネラル・エレクトリック)との技術提携で原子力分野に進出しており、東芝が製造する原子炉の形式はGEと同じBWR(沸騰水型)である。しかし、ウェスチングハウスが主に製造していたのはPWR(加圧水型)で、炉の形式が異なっている。WHは三菱重工に技術供与を行っており、三菱の炉の形式はPWR。従って、ウェスチングハウスの買収によってシナジー効果を得やすいのは東芝ではなく三菱の方であった。つまり東芝はかなり無理をしてウェスチングハウスを獲得したことになる。
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