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「君の名は。」飛騨市に学ぶアニメツーリズムカギは「スピード感」「ライセンス意識」(2/2 ページ)

大ヒット映画を活用したインバウンド事業は、どのような効果があるのか。成功するアニメツーリズムとはどんなものなのだろうか。「君の名は。」の聖地として観光客を国内外から集めた岐阜県飛騨市の例から学ぶ。

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飛騨市のスピード感

 「君の名は。」は岐阜県飛騨市をモデルにしているが、飛騨市は事前にそのことを全く知らなかった。映画の詳細を知ったのは全国一斉試写会のタイミング。飛騨市はすぐさま版元に問い合わせ、翌日から協力への話し合いを進めた。映画の公開日である16年8月26日から大きく間をあけず、9月には観光モデルルートを示すWebページを公開できた。版元と提携し、「飛騨でしか手に入らない」をアピールしたオリジナルクリアファイルも用意できた。


観光モデルルートを示すWebページ(=飛騨市公式観光サイト「飛騨の旅」)

 それでも「手遅れだったのではないか」という思いがあったというが、公開前から行動したことが功を奏し、爆発的ヒットに乗り遅れずに済んだ。

 中でも画期的な取り組みは、「君の名は。」公式ストーリーガイド付き観光冊子を、中国語(繁体字・簡体字)、タイ語、英語の4言語で作ったことだ。周辺の3市1村が連携し、タイトなスケジュールで作り上げた。周辺地域との交流も「君の名は。」観光推進を通じて深まった。聖地となっている図書館も、職員がアイデアを出し、SNS投稿のルール周知などが行われるようになるなど、ボトムアップの取り組みも見られた。

 「君の名は。」の認知度や評判の上昇は、こんなエピソードからもうかがえる。実は飛騨エリアには映画館がなく、映画を見ようとすると1時間以上かかる富山市まで出なければならないが、「この土地で映画が見たい」というニーズが高まり、市内での上映会も開催された。計2100枚のチケットは1時間半で完売し、「見たかったのに席が取れなかった」と苦情が寄せられるほどだったという。

 裏を返せば、これだけのスピード感をもちつつ、地域全体が自主的に取り組んでいるようでなければ、アニメツーリズムの成功は難しいと言える。「映画がヒットして初めて版元とのコンタクト方法を探る」ようなスピード感では遅すぎるのだ。

「何がダメか分からない」……低いライセンス意識

 アニメで町おこしを狙う地方自治体でよくあるトラブルが、無断の便乗商法だ。地元の商品に勝手にアニメのロゴを付けてしまったり、勝手に作品の題を冠した商品を作ってしまったり……。悪気はなくても「海賊版」を作ってしまい、グッズの売り上げで制作費や宣伝費を回収したいアニメの製作委員会と対立してしまうこともある。

 「版元の方も、『作品を広げることとブランド維持のせめぎあいは非常に悩ましい』と語っている。地元の人たちは、何がよくて何が悪いのか分かっていない。ブランドを守って、ファンの方の思いを壊さないために、地域の人々がライセンスビジネスについて学ばなければいけない」(飛騨市役所観光課横山理恵氏)


大型IPと積極的にコラボを行う鳥取県の平井知事

 地方自治体とライセンスビジネスの関わりについて、参考になるのが鳥取県の取り組みだ。鳥取県は空港に「鳥取砂丘コナン空港(旧鳥取空港)」や「米子鬼太郎空港」と愛称をつけるなど、積極的に大型IPとコラボを行っている。16年夏のゲームアプリ「Pokemon GO」の大ブームの際には、鳥取砂丘でPokemon GOをプレイしてほしいという思いを込めていちはやく「スナホ・ゲーム解放区」宣言をするなど、行動も早い。

 「鳥取県では、アニメ・マンガに関連したいろいろな取り組みをしている。鳥取県庁では、職員を対象にライセンスの研修を行っている。アニメツーリズムとは、版権ビジネス」(平井伸治鳥取県知事)

 アニメツーリズム協会は、アニメ作品と民間事業者(版元、製作委員会)をつなぎ、ビジネスの機会損失を回避するとともに、収益の多角化・拡大化を目指すという。

 「スピード感」と「ライセンス意識」――聖地とアニメ作品両方がWin-Winとなるアニメツーリズムのためには、この2つが欠かせない。

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