爆発的ヒット『君の名は。』 昔からの新海誠ファンが抱く複雑な感情とは?:新人記者(オタク女子)が行く(1/4 ページ)
8月26日に公開されたアニメ映画『君の名は。』が、公開10日間で累計動員数300万人、興行収入38億円を突破する大ヒットとなっています。新海誠監督の昔からのファンは、『君の名は。』について複雑な感情を抱いているようで……? ファンに語ってもらいました。
新人記者が行く:
アラフォーの鬼編集者に囲まれつつも、毎日必死で記事を書いている新人のスズキとアオヤギ。元高校球児で“史上最強の応援団長”の呼び名を持つスズキと、家にいるのが何よりも好きな女オタクのアオヤギ。平成生まれの2人が「最近気になること」に突撃していきます。連載バックナンバーはこちら。
青柳 2016年の夏休み映画は大豊作ですね。『シン・ゴジラ』に続いて、『君の名は。』が大ヒットしています。公開10日間で累計動員数が300万人、興行収入は38億円を突破。『シン・ゴジラ』を超えるかも、と言われていますね。
鈴木 僕も見に行こうと思って映画館に行ったら、満席で見れなかったよ……。新海誠監督の作品を見たことって実はないんだけど、いつもああいうラブストーリーものを作っているの?
青柳 うーん…………私は過去の新海監督作品を全部見ているんですが、今回はちょっと毛色が違う雰囲気もありますね。昔からの大ファンは、もしかしたら今回のヒットを複雑な気持ちで見ているかもしれません。
鈴木 そうなんだ! ちょっと、昔からの新海監督ファンに今の気持ちを聞いてきてよ!
青柳 ええっ! 大丈夫なのかな……やってみます!
これまでのファンはどんな気持ち?
8月26日に公開されたアニメ映画『君の名は。』が、公開10日間で累計動員数300万人、興行収入38億円を突破する大ヒットとなっている。都会の少年・瀧と、田舎の少女・三葉が、奇跡的なきっかけで出会い、恋をする――という爽やかで真っすぐなラブストーリーだ。
『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』の新海誠監督、小説『世界から猫が消えたなら』でも知られる川村元気プロデューサーがタッグを組んだ本作は、これまでの新海監督ファンとはまた違う層にリーチした。
その様子は動員数や興行収入からも見て取れる。前作『言の葉の庭』(2013)は、これまでの新海監督作品で最大のヒットだったが、動員数は10万人、興行収入は1.5億円。公開館数も最大全国23館と、『君の名は。』とは規模が大きく異なる。
『君の名は。』の爆発的ヒットを、これまでの新海監督ファンはどう見ているのか? 一般ファンのヒデタカさんとケンジさんに、複雑な胸の内を聞いた。
編集部より
以下、『君の名は。』についてのネタバレが含まれるため、未鑑賞の方はご注意ください。
『君の名は。』どうだった?
――『君の名は。』を見ての感想を教えてください!
ヒデタカ: 面白かったです。これまで新海監督は“遠距離恋愛”を主題にして作品を作ってきたけど、どこか悲恋の要素や何かを犠牲にする要素があったんですよ。でも『君の名は。』は、何も犠牲にしないハッピーエンドで、「よかったねー!」とさわやかな気持ちで終われる。
ケンジ: 僕は2回見ました。初回は過去の新海作品を引きずっていたのもあって、「こういう方向(エンタメ)に行ったか」と頭を抱えました。でも2回目を見たときはそういうのはなくなって、「ある意味完成されているな」と納得した。複雑な感情ですが、好きか嫌いかでいえば、好きなのかな……?
ただ、「この作品の監督は、新海監督じゃなくてもよかったのかも」という感覚があります。それこそ細田守監督とか、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(通称『あの花』)のチームがやっても素晴らしい作品ができていたかもしれない。一方で、『星を追う子ども』(2011)からの大衆向け路線変更が完成してよかったなあというある種の安心感があります。
ヒデタカ: あー、俺も“新海監督作品”としてじゃなく、1つのアニメ作品として面白く感じました。現実社会の光景を非常にきれいに描いているし、聖地巡礼をするのも楽しそう。今の高校生は『君の名は。』と同じような生活をリアルで送れるのかもしれない。それを考えるとうらやましい!
――なるほど。『君の名は。』の魅力を語っていただけますか?
ケンジ: 中学生・高校生・大学生を狙った作品で、ちゃんと対象層に届いている。新海監督の初期作品は“背景は重要だけど人物は記号的(取替えがきく)”という描写だったんです。でも『星を追う』からだんだんキャラクター性が強くなっていって、『君の名は。』ではキャラがいきいきしていた。ギャグシーンも取り入れて、劇場では観客の笑い声も聞こえてきましたね。
ヒデタカ: 今までの作品では考えられなかったよね。
ケンジ: 「泣ける」「切ない」だけじゃなくて、「笑わせる」こともできる。喜怒哀楽をキャラクターが見せられるようになったのは、すごい変化だなと。あと、パンチラが描かれていたことにも驚きました。
『雲のむこう、約束の場所』(2004)の沢渡佐由理の着替えシーンや、『君の名は。』の冒頭シーンでも下着姿は描かれましたけど、パンチラという形で見せるのは初めてじゃないかなって。新海監督の案ではないかもしれないけど。
ヒデタカ: キャラクターデザインは『あの花』『心が叫びたがってるんだ。』の田中将賀さん。アニメファンにも、今の中高生にもとっつきやすい絵柄ですよね。それに元スタジオジブリのスタッフが動きをつけている。
ケンジ: 作画監督はジブリでたくさんの作品を手掛けていた安藤雅司さん。本作は新海監督の役割がこれまでより限定的だよね。ビデオコンテはいつも通り監督が手掛けていたようだけど。
ヒデタカ: 新海監督は細田監督とよく比べられるけど、東映アニメーションのアニメーター出身の細田監督と、ゲーム会社出身の新海監督だと、全然ルーツが違うんです。ある意味新海監督は、今回初めて“アニメの作り方の師”を得たのかもしれない……。
――確かに新海監督は、1作目の『ほしのこえ』(2002)が作品のほとんどを1人で作っていることで話題になり、キャリアをスタートしています。
ケンジ: 音楽についても語っていいですか? RADWIMPSを起用していて、作品の内容やキャラデザになじんでいた。“宣伝のためのタイアップ曲”じゃなくて、作品のための曲という気がしましたね。これまでの音楽は天門さんやKASHIWA Daisukeさんによるピアノ曲が中心で、孤独感が強い印象でした。
ヒデタカ: RADWIMPSは、俺たちの世代とはちょっとズレるけど、今の中高生がよく聞いているのかな?
ケンジ: 僕たちにとってのBUMP OF CHICKENみたいな立ち位置なのかもしれない。『ONE PIECE』の映画の主題歌になったこともあったし。あと、声優も人気の火付け役となっていると思う。特に、主人公の瀧を演じている神木隆之介くん。神木くんは新海監督の大ファンを公言していて、確か『秒速5センチメートル』(2007)が好きすぎて自分で全編アフレコしたと話してた。
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