東武鉄道は「つながり」を大切にしている会社だ、と思える事例:弱点を克服し、利用者に恩恵(3/3 ページ)
「つながり」の力はビジネスでも、実社会で生きる上でも大事だとよくいわれる。その意味では、東武鉄道ほど「つながり」を大切にする鉄道会社は、なかなかないのではないだろうか。このつながりが、東武の弱点を克服するだけではなく、多くの利用者にも恩恵をもたらしている。
いまに生きる根津嘉一郎の精神
東武の礎を築いた初代根津嘉一郎は、阪急電鉄の小林一三や東京地下鉄道の早川徳次と並ぶ、山梨県出身の鉄道経営者として知られている。根津は、多くの鉄道会社の経営に関わり、「鉄道王」と呼ばれた。主なものを挙げても、東京地下鉄道や南海鉄道などがある。南朝鮮鉄道の経営にも参加していた。
一方で、根津は「社会から得た利益は社会に還元する義務がある」というポリシーを持っていた。そのために、教育に力を入れていた。旧制の武蔵高等学校を造ったのも、根津である。この学校は、現在の武蔵中学校・高等学校、武蔵大学へと発展している。
これらの学校は、東武沿線ではなく、武蔵野鉄道(現在の西武池袋線)沿線につくられた。根津は武蔵野鉄道の株式を持っていたのかもしれないが、自社の沿線ではなく他社の沿線に造ったことはいまから考えると意外である。武蔵中学校・高等学校は独自の教育方針で知られ、多くの難関大学合格者を輩出している。その卒業生は、さまざまな世界で活躍している。
また、ふるさと山梨県の学校にも寄付を行った。山梨市の万力公園には、根津嘉一郎の銅像がある。根津は、郷土の偉人でもあるのだ。
根津嘉一郎が作り出したネットワーク型の思考が、いまの東武にも生き、多くの利用者がその恩恵を受けている。
囲い込むだけがビジネスではない。多くの人と手をたずさえて、事業を成し遂げることがいまの時代にも求められている。その意味で、狭い範囲内でものを考えがちな私たちが、東武に学ぶことは多いのではないだろうか。
著者プロフィール:小林拓矢(こばやし・たくや)
1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。フリーライター。大学時代は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。単著『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)、共著に首都圏鉄道路線研究会『沿線格差 首都圏鉄道路線の知られざる通信簿』(SB新書)、ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)。
関連記事
- なぜ時刻表に“謎ダイヤ”が存在するのか
鉄道の時刻表を調べる際、スマホで検索している人が多いだろうが、実は紙の時刻表をじっくり見ると、興味深い情報がたくさんある。例えば、実際に走っていない特急が走っていることも。どういうことか。『JTB時刻表』の大内編集長に、謎ダイヤの真相を聞いた。 - なぜ地図で「浅草寺」を真ん中にしてはいけないのか
地図を作成している編集者に、2枚の地図を見せてもらった。1枚は浅草寺が真ん中に位置していて、もう1枚は浅草寺が北のほうにある。さて、実際に地図に掲載されているのは、どちらなのか。答えを聞いたところ、予想外の結果に!? - 小田急電鉄の強みから、何を学べるのか
東京山手線から放射状に各地へ向かっていく私鉄各社。どれも同じように見えるかもしれないが、それぞれの会社には異なる戦略があり、それに各社の強みをかけあわせ、鉄道事業を行っている。ビジネスパーソンは、私鉄各社から何を学ぶことができるのか。 - 電車が遅れたらカネを返せ、はアリか?
ちょっと前の話になるけれど、参議院議員が「電車の遅延度に応じて料金を割り引く制度を提案する」とツイートして失笑された。遅延へのいらだちはごもっとも。しかし、失笑された理由は「目先のカネで解決しよう」という浅ましさだ。 - 山手線・品川新駅の魅力を高める「田町始発」電車
JR東日本が建設している「品川新駅」について、広大な開発用地の使い道や駅舎のデザインなどが話題になった。ここで、もう1つ重要な話をしよう。駅にとって大切な列車の運行計画だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.