経営者の口癖には共通点がある:新連載・夏目幸明の“経営者論”(2/2 ページ)
言葉は心を映す鏡だ。ときに心は言葉に操られることがある。また、一流の人間の言葉を記憶に刻めば、その一端は確実に血肉になる。数多くの経営者を取材してきた筆者が、自分の明日を良い方向へ変えるヒントとなる経営者の言葉を紹介する。
アパホテルの元谷社長やスカイマークの市江社長も
同じようなことを話す経営者は実に数多い。スカイマークの再建を託され、社長に就任した市江正彦社長もそんな一人だ。
彼の言葉は「そうきたか」。市江社長は東京大学卒業後、日本政策投資銀行へ入行し、日本航空やAIRDOなど多数の企業を再生へと導いてきた人物だ。そんな日本経済界の重要人物が、うまくいかない場面で「そうきたか……」と腕ぐむ姿は少しユーモラスでもある。
「先輩からもらった言葉がヒントになっているんです。『仕事がうまくいかないときはゲームだと心得る』のだと言われ、私なりに解釈しました。例えば、再生すべき企業に再建策を提案しても、経営陣や社員にはさまざまな事情があって、受け入れられないことが多々あります。当社の会議だって、腹が立つことはありますよ(笑)。でも、怒る代わりに『そうきたか』と考えるんです。そして、どう切り口を変えるか楽しみながら考え直せばいいじゃないですか」
そう話した後、市江社長は財布から名刺台紙を取り出した。その紙は白紙で、隅に「NNC」と印刷してある。
「これは人からもらったメモ帳の1ページです。NNCは“ノーネガティブコメント”の略。いつも財布に入れて持ち歩いていますよ」
温厚な市江社長の言葉だからからこそ、迫力があり、同時に覚悟の強烈さをうかがえた。今までどれだけのわからず屋にNOを突きつけられてきたのだろう? その結果、彼は強く決心したのだ。「NNC」と。
さらには、アパホテルを運営するアパグループの元谷芙美子社長だ。取材をすると、事業デザインは彼女の夫が描き、彼女自身は社員を元気づける“母親的”な役割を果たしていると感じた。
自分の顔が印刷されたレトルトの「アパ社長カレー」を筆者へのお土産にと渡し「厄除けになるわよ」と笑う彼女の懸命な明るさに少し胸打たれ、思わず「自分の顔を出し、悪く言われたこともあるでしょう。腹が立ったり落ち込むことってないんですか?」と聞いた。彼女は数十秒、黙って考えをまとめ、こう口にした。
「そうね。今考えれば、(批判や困難な出来事が降りかかってきたことが)、ちょうどよかったのよ」
彼女は「NO」に腹を立てず、心も折らず、転んだら起き上がりざまに「いい筋トレになったわ」と笑って見せるように、「NO」の向こうにある自分を成長させる何かと出会ってきたという。その道のりの全てが、いまの彼女の力になっているからこそ「ちょうどよかった」と言い切れるのだろう。
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