進むバーチャル化で変わるクルマの設計:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
いまクルマ作りが長足の進歩を迎え、自動車設計のコンピュータ化が新しいフェーズに入ろうとしている。これまでとはまったく違う世界が広がることが期待されるのだ。
3月31日、経産省は自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会での検討内容をとりまとめた(関連リンク)。
一般の人がこれを読んで「なるほど」とは思わないだろう。むしろ何を言っているのか分からないのが普通の反応だ。しかし、いまクルマ作りが長足の進歩を迎えようとしている。自動車設計のコンピュータ化が新しいフェーズに入ろうとしている。
それはどういうことなのかを真面目にクルマの話として始めると、雲をつかむような話になるから、ひとまず、たとえ話からスタートしよう。
複雑な要素がループする世界
あなたが今、何かの集まりの幹事をやろうとしているとしよう。日にちはいつにするか、昼なのか夜なのか、開催地はどこにするか、予算と店選びはどうするか……。
場所によって、参加者が変わり、選べる店も変わり、それによって予算が変わるから参加人数も変わる。昼なのか夜なのかによって参加者の傾向と属性が変わり、それも店選びや予算と関係してくる。
幹事慣れした人だと、あらかじめ何人かにヒアリングをして、どうしたいかを聞き出し、とりあえずそれに沿ってベースプランを立てる。これを全体にぶつけながら反応を見て、修正をかけていく。
この状況、要するに何なのかと言えば、数多くの変数要素が相互に関係してループしている構造を手順的にどう整理するのかという話だ。幹事の目的は、できるだけ大勢が参加できて、なおかつ多くの参加者に満足してもらうことだろう。
ところが、参加者は多様で「とにかくおいしいものが食べたい」とか「雰囲気の良い店で」とか「懐が厳しいから安く」とかバラバラだ。1つの要素だけ重視して「おいしいこと」に特化すると、「そんなにお金がかかるなら行かない」という人が出てくるし、当日「何か料理いまいちだったよね」と言われるのも幹事としては耐えがたい。その最適なバランスというのは結構難しく、下手をすると日時や場所のレベルからやり直しになってしまう。
さて、クルマに置き換えるとどういうことだろうか? 代表的な例で言えば、コスト/燃費 vs 走りの対立だろう。2000年代に入って以降の日本車はとにかくコストダウンを優先にしてきた。安く、低燃費であることの優先順位が極めて高かった。コストが求めるのは徹底した合理性なので、同じニーズに対して同じクラスのクルマの最適解はそうそう多くない。その結果、メカニズムの構成はどのメーカーも似たようなものになり、クルマの個性が失われていった。
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