進むバーチャル化で変わるクルマの設計:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
いまクルマ作りが長足の進歩を迎え、自動車設計のコンピュータ化が新しいフェーズに入ろうとしている。これまでとはまったく違う世界が広がることが期待されるのだ。
全てを良くする方法 最適化の最先端
しかし、ここ数年、メーカーが走り味そのものを全面に押し出すことが増えつつある。それはコストと燃費だけでは商品性を訴求できない時代に突入したということだと筆者は考えている。
従来のやり方で走りを良くしようとすれば、当然コストが上がったり、燃費が落ちたりする。かつては高性能なクルマは燃費が悪くて当然という時代もあったが、今やそういう例外を世界の環境規制が許さない。例えば、米国にはCAFE(Corporate Average Fuel Economy:企業平均燃費)と呼ばれる燃費基準があり、メーカーが販売した全モデルの燃費が荷重平均され、その燃費が11.7キロ/リットルを超えてはならない。
ちょっと燃費の悪いスポーツカーを「このジャンルの顧客は多少の燃費には目をつぶってくれるから」とリリースして、うっかりそれがヒットしてしまったりすると、CAFE基準がクリアできなくなり莫大な罰則金が課せられる(CAFEを達成した他の会社の余剰枠を買う手もある)。
つまり、CAFE基準は燃費の良いクルマをたくさん売り、燃費の悪いクルマを売らないことでしか達成できない。だから燃費に目をつぶったクルマは万が一にもヒットすることが許されない状態になっている。となれば、最初から販売台数を限定するしかない。メーカーとしては採算に乗らない台数限定のクルマを出す意味はよほどのことがない限りない。
しかし、コストと燃費に縛られている限り、その先で他社との競争ができない。その状態で出口を探せば、走りと燃費、価格、安全性能などありとあらゆる要素をバランス取りしながら向上させていくしかない。かつて英国のMGは自社のスポーツカーに「Safty fast」と言うスローガンを用い、対立する2つの価値を両立して高めると主張した。
現代のクルマはこれを2項レベルではなく、環境、安全、性能、コストなどの従来からの要素に加え、ハイブリッドなども含む電気やデバイスまで、もっと複雑に連立させなくてはならない。これらを従来型の試作に頼る方式で行っていたのでは、いつまで経ってもクルマが完成しない。そこで今、数多くの要素をコンピュータでシミュレートして、正解に近いところまで一気に持っていく技術が求められている。こういう手法をModel Based Development(MBD=モデルベース開発)と言う。
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