解決してきたから、「アンメルツ」は選ばれ続けた:ロングセラーを読み解く(2/3 ページ)
2016年、販売から50周年を迎えた小林製薬の肩こり薬「アンメルツ」シリーズ。現在同シリーズの販売本数はシリーズ累計で2億本を超えている。なぜ売れ続けているのか。「アンメルツ」シリーズの軌跡をたどりながらその理由を探る。
全ては社員の悩みから生まれている
アンメルツの大ヒットを受けて、競合他社もすぐに類似商品を開発し、追随を図った。その影響でアンメルツの売り上げは徐々に失速していく。
追随する他社製品との差別化を図ることが求められていた小林製薬は「使い勝手」をさらに追求した。そして生まれたのが74年発売の「アンメルツヨコヨコ」である。
アンメルツヨコヨコは同社の社員が「肩の奥や背中にも塗りやすくできないか」という提案から始まった。垂直型の初代アンメルツでは体の後ろ側まで塗ることができなかったのだ。さまざまな試行錯誤を繰り返す中、「容器の先端を曲げることで塗りやすくなるのでは」とアイデアが出た。「孫の手」のように容器の先端を曲げて塗布部を横向きにすることで、垂直型の初代アンメルツよりも塗れる範囲が広がった。
「“まだユーザーも気付いていないニーズ”に応えることができた商品でした。結果、初代アンメルツの初速よりも早いスピートで販売本数を伸ばしていきました。また、先端が横に曲がったアンメルツヨコヨコの液体充填では、先端を上向きに容器を寝かせる必要があるため、アンメルツヨコヨコ専用の製造ラインの増設が必要でした。前例のない方法だったため他社も容易にマネできず、このときに大きくシェアを伸ばすことができました
同社の商品開発で共通しているのは、市場調査やユーザーの声ではなく、全て社員の悩みが起点となっていることだ。
86年に発売した、肩こり薬の独特な臭いを抑えた"無臭性"の「ニューアンメルツヨコヨコ」もそうだ。
「それまでのアンメルツでは解決できていなかった「臭い」を抑えたいという女性社員からの要望に応えました。これまで男性中心のユーザーが多かったのですが、この商品に関しては女性に大人気で、売り上げ全体の半分を女性ユーザーが占めています」
16年発売の新商品「アンメルツNEOロング」も、これまでのアンメルツシリーズでは届かなかった背中の中心部分のこりを取りたいと悩んでいた男性社員からの発案であり、同社の製品は必ず社員の悩み・要望が起点となり商品が生まれている。
その理由について「市場調査から分かるニーズを分析してもヒット商品は生まれない」と説明する。
「市場調査などのデータから商品のアイデアが生まれたことはありません。データや調査で分かるような課題には他社も既に取り組んでいるはずです。“ユーザー(市場)がまだ気付いていない”潜在ニーズに応えることが重要なのです」
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