連載
値下げで増収? ある第三セクターの緊急対策:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
経営努力をしても減らない赤字を自治体の補助でなんとかクリアする。多くの地方鉄道事業者の実情だ。できることなら運賃を値上げしたいはず。ところが、富山県の鉄道事業者が一部区間で運賃を値下げした。その特殊な事情とは……。
連絡運輸と乗継割引
連絡運輸を行う区間とは、乗り換えきっぷを売る範囲だ。乗継割引は、連絡運輸の範囲内で特別に実施する割引である。2つの鉄道事業者を乗り継ぐとき、2社分の初乗り料金がかかるため、1社で同じ距離を乗った場合よりも割高になる。特に短距離区間では割高感が増す。そこで境界の駅をはさんで一定の距離までを乗り継ぐときは、両社とも一定の料金を割り引く。条件は、事前にきっぷを買った場合と、ICカード乗車券を利用した場合だ。乗換駅で降りて別々のきっぷを買った後では適用されない。
JR同士は別会社でも距離を通算して運賃を決める。しかし、JRと私鉄、私鉄同士では、連絡運輸と乗継割引を組み合わせる事例が多い。東京メトロと都営地下鉄を乗り継ぐと、普通運賃は両社の合算額から70円引きになっている。
「あいの風とやま鉄道」に話を戻すと、元々、北陸本線も氷見線も城端線もJR西日本の路線だった。しかし、北陸新幹線の開業と同時に4つの会社に分かれた。今まで1社の運賃で済んだけれども、これからは境界を越えるたびに初乗り運賃がかかる。しかも第三セクターはJR西日本時代に比べて運賃が割高だ。そこで、境界駅付近の乗継割引を実施した。
関連記事
- なぜ鉄道で「不公平政策」が続いたのか?
赤字の鉄道路線の存続問題を議論するとき「鉄道は他の交通モードに対して不公平な立場にある」という意見がしばしば見受けられる。JR北海道問題もそうだし、かつて国鉄の赤字が問題になったときも「鉄道の不公平」が取りざたされた。なぜ鉄道は不公平か。どうしてそうなったか。 - 「通勤ライナー」の価格はもったいない
西武鉄道、東京メトロ、東急電鉄、横浜高速鉄道が直通の有料座席指定列車を走らせる。新型車両まで用意した。そこて再び鉄道会社の「通勤ライナー」という施策が注目されている。良いアイデアだけど、惜しい。もう一工夫ほしい。 - 事実上の廃線復活 可部線延伸から学ぶこと
新幹線開業などの大きな目玉がないせいか、今週末のJRグループダイヤ改正は大きく報じられない。しかし、鉄道ファンや交通問題に関心のある人には注目の案件がある。広島県の可部線が延伸する。たった1.6キロメートルとはいえ、事実上の廃線復活だ。JR発足30周年の年に、JRとしては初の事例ができた。 - 国鉄を知らない人へ贈る「分割民営化」の話
4月1日にJRグループは発足して30周年を迎えた。すなわち、国鉄分割民営化から30年だ。この節目に分割民営化の功罪を問う論調も多い。しかし、どの議論も国鉄の存在を承前として始まっている。今回はあえて若い人向けに国鉄と分割民営化をまとめてみた。 - 鉄道と生まれ変わった宮城県女川町を旅した
東日本大震災で市街の大半が消失し、復興の過程にある宮城県女川町。石巻線の全線復旧から1年10カ月、駅前商業施設「シーパルピア女川」のオープンから1年が過ぎた。新しい町に人々が列車で訪れる様子を見て、鉄道がある町の活気を感じた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.