伸ばせば3メートル以上! ジャバラ地図『全国鉄道旅行』の存在意義:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
出版不況と電子地図の普及によって、紙の地図には向かい風が吹いている。しかし、日本の鉄道路線図を1枚に収めた『全国鉄道旅行』が毎年1万部以上と堅調な売れ行きだ。正縮尺ではないデフォルメ地図に、一定のファンが付いている。実は筆者もそのひとりだ。
乗った路線を塗りつぶせ
私の『全国鉄道旅行』の用途は“乗りつぶし”だ。乗車した路線を黒いペンで塗りつぶしていく。同時に表計算ソフトでも記録しているが、地図を見ればまだ乗っていない路線や区間がひと目で分かり、計画を立てやすい。日本百名山の全てを登ろうという登山家がいるように、全国の鉄道路線全てに乗る“乗り鉄”も少なくない。
乗り鉄たちは、それぞれのやり方でスコアを管理しているが、残念ながら決定版がない。2014年にJTBパブリッシングが乗りつぶし記録アプリ「レールブック」を提供した。時刻表発行元の会社だけに、これが決定版と思われた。しかし、17年5月をもってサービスを終了する。無料アプリとしてスタートしたまま、収益化が難しかったようだ。
私にとっては『全国鉄道旅行』が視覚的管理ツールの要となっている。特に、「毎年、必ず新版が出る」ことがありがたい。“乗りつぶし”愛好者向けの路線図や白地図は時々出版されるものの、たいていは1回限り。鉄道趣味のなかでも奥深い“乗りつぶし”に特化すると市場を狭めてしまうから、売れなかったのかもしれない。改訂版が出る路線図もあるとはいえ更新頻度は少ない。
ライフワークとして“乗りつぶし”を楽しむためには、路線図が“きちんと改訂される”と定まっていないと心もとない。その点、『全国鉄道旅行』はきちんと改訂される。地図だから更新されて当然ともいえる。鉄道好き、旅行好きという、ふんわりとした大きな市場に向けて、毎年更新され、結果として“乗りつぶし”に都合がよく、安心して“便乗”できるというわけだ。
私の使い方は、この地図の作り手から見ると邪道だろう。せっかく編集者が路線ごとにきれいに塗り分けた路線図を、全て黒く塗りつぶしているからだ。だが、私にとって、この地図は塗りつぶすためにある。むしろ本来の使い方が分からない。いったいこの地図は何のために存在しているのだろう。
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