伸ばせば3メートル以上! ジャバラ地図『全国鉄道旅行』の存在意義:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
出版不況と電子地図の普及によって、紙の地図には向かい風が吹いている。しかし、日本の鉄道路線図を1枚に収めた『全国鉄道旅行』が毎年1万部以上と堅調な売れ行きだ。正縮尺ではないデフォルメ地図に、一定のファンが付いている。実は筆者もそのひとりだ。
次の大改訂はリニア中央新幹線?
1971年版の『全国鉄道旅行図』から、最新の『全国鉄道旅行』まで、過去のリニューアル版を並べて比較してみたら面白かった。国鉄からJRへ、路線の新設や廃止を比較できる。大都市の路線網が発展していく。逆に北海道と北九州は隙間が増える。どちらも石炭の輸送路線が綿密な路線網となっていた地域だ。今後、北海道の地図はどうなるのか。地形ごと縮小してしまうかもしれない。北海道の大きさが同じままなら、かえって喪失感が大きすぎる……。
地図の作り方の変化も分かる。1971年版は、山陽新幹線の岡山〜博多間が点線になっている。当時は何年か先の開業予定の路線が記載されていた。現在は発売後すぐに開業のケースを除いて予定や未定は描かれない。地図に限らず、昔の印刷物は版下という厚紙の台紙に写植文字や図版のアタリ(指示)を貼って作っていた。簡単には作り直しができないから、開業予定線もあらかじめ入れていたらしい。現在は編集作業が電子化されているため、短期間で事実だけを記載し更新できる。
次の大幅改訂は、リニア中央新幹線の開業だろう。もしかしたら、地形を変えるなど大きな作り直しになるかもしれない。ところが、現在の『全国鉄道旅行』を広げ、実際にリニア中央新幹線のルートをたどってみると、かなり一直線に近い線になりそうだ。これには感心した。もともとのデフォルメ地形が、主要駅の位置関係をきちんと考えて作られていたといえる。
昭文社は『全国鉄道旅行』に加えて、2つのジャバラ地図を販売している。『全国高速道路』と『全国道の駅マップ』だ。どちらも沿道の観光地のイラストがちりばめられており、にぎやかだ。『全国鉄道旅行』のファンとしてはちょっと悔しい。それはともかく、どちらも、高速道路を塗りつぶし、道の駅の全駅訪問を志す人にオススメだ。その使い方が正しいかどうかは関係ない。地図の使い道はユーザーが決める。
大切なことは、毎年、新しい経年版が出ることだ。100万部を1回だけより、1万部を100年続けてほしい。これからもよろしくお願いします。
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