外国人が多いのになぜ? 渋谷区が観光施策に注力する事情:集客力はあるが……(1/2 ページ)
東京を訪れる外国人観光客は2015年で約1189万人に上った。そして彼らの多くは渋谷に足を運んでいる。にもかかわらず、渋谷区には観光に関する大きな悩みがあるという。それは……。
今、JR渋谷駅前のスクランブル交差点に行くと、朝夕問わず数多くの外国人観光客に遭遇するだろう。彼らはスマートフォンやカメラを掲げて、交差点を行き交う人々の波を撮影したり、それをバックに記念撮影したりしている。
そう、渋谷のスクランブル交差点は旅行専門サイトやガイドブックなどにも載るほど世界的に有名な日本の観光スポットで、実際「Instagram」などのSNSで検索すると、さまざまな国籍の外国人が写真や動画を多数投稿していることが分かる。
ところが、渋谷区によると、外国人観光客の多くは撮影が終わると渋谷センター街や渋谷公園通りなど町の奥へとは進まず、電車に乗るなどして別の場所に移動しているのだという。要するに、撮影スポットとして渋谷のスクランブル交差点を訪れるのが主な目的だったのである。そしてショッピングや飲食、宿泊の中心は六本木や銀座、新宿。ストレートな表現で言えば、渋谷にはあまりお金を落としていないのである。
東京都の外国人観光客は2015年で前年比34.0%増の約1189万人、観光消費額は同42.0%増の1兆1150億4500万円と右肩上がりで増え続けているが、都内でもその恩恵を受けているエリアには差があるようだ。
渋谷区には外国人観光客が確かにやって来ている。出口調査によると、渋谷、表参道&原宿、恵比寿&代官山のエリアだけで東京都全体の数字に匹敵する。けれども、そこから彼らの消費行動にはなかなかつながらない。こうした状況を課題に感じた渋谷区は、いかにして外国人観光客がスクランブル交差点や忠犬ハチ公像を見るだけで帰らず、どうすれば渋谷の町の中にまで入り込んでくれるかを考えるようになった。その先導役が渋谷観光協会である。
何もしなくても人は集まってくるが……
同協会は2012年4月に渋谷区と東京商工会議所が共同設立。官民協働による観光事業の新興によって「国際文化観光都市・渋谷SHIBUYA」の実現を目指している。ただし現状は「まだ国際文化観光の後進都市」と渋谷観光協会の金山淳吾理事長は指摘する。
渋谷と言えば、若者カルチャーの情報発信基地として、古くからその認知は国内外で広い。特に何もしなくても大勢の人々が集まってくる。そうした状況にあぐらをかいていたため、実は観光に関してはこれまで主体的な情報発信はほとんど行っていなかったという。観光客とのコミュニケーションが不足しており、「数年前までは渋谷駅周辺に観光案内所も数えるほどしかありませんでした」と金山氏は話す。
また、外国人観光客が日本全体で伸びている現状だから、あまり危機感を覚えていない人は多いものの、今後その成長がストップしたときに、渋谷をリピートしてくれる観光客がいなくなるというリスクは決して少なくないと金山氏は考える。そうならないためにも、渋谷のファンになる観光客を1人でも多く増やし、彼らが渋谷で食事したり、土産を買ったり、宿泊したりして、地元との関係性を構築することが重要だという。
そこで金山氏が中心となって、渋谷という町の深い魅力を伝えるための取り組みをスタートした。まずは外国人をはじめとする観光客に対して地域の情報発信を行うために、観光協会の公認アプリ「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」をリリース。例えば、イベント情報や文化施設などの情報、店舗で使えるクーポン情報などを掲載。加えて、2016年5月に約300個のBeacon(近距離の無線発信機)を繁華街を中心とした渋谷区内に設置。今年3月までにその数は800個に、2017年度中には1500個まで増やすという。アプリのユーザーがBeaconのそばを通ると、そのエリアに関連する情報などをスマホに送るようにした。現在、アプリのユーザー数は約1万だという。
「例えば、Googleで“渋谷 観光”と検索しても、美術館の楽しみ方など出てこないでしょう。そうした情報を渋谷を歩いている人に届けたいと思いました。そのための環境整備においてBeaconはコスト効率が良かったのです。Wi-Fiを整備すると数百万円単位でコストがかかりますが、Beaconだと1台当たり数千円でネットワーク構築が可能です」(金山氏)
関連記事
- 佐藤可士和氏が語る、地方発ブランドの成功条件とは?
今治のタオル産業の復活を目指し、2006年にスタートした「今治タオルプロジェクト」。そのブランディングにかかわるクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏に、地方発ブランドが成功するための条件などを聞いた。 - 衰退一途の今治タオルが息を吹き返した“大事件”
愛媛・今治の地で100年以上前から続くタオル産業。長らく日本有数の産地として発展を遂げたが、1990年代に入ると中国産の安い製品に取って代わられるなど、生産量が激減した。そこからどのような復活劇を遂げたのだろうか――。 - 星野リゾート、ブランド作りの条件とは?
大阪・新今宮エリアに新たな都市観光ホテルの開業を目指すなど、その取り組みが注目を集めている星野リゾート。同社の経営トップである星野佳路代表に事業展望などを聞いた。 - 次世代データセンターは新潟に経済効果をもたらすか?
いま新潟県で官民一体のデータセンターが相次いで新設されようとしている。なぜ新潟なのか? そこには他の地方ではなかなか実現が難しい理由があった。 - インバウンドに沸く沖縄の小売業、しかし課題も
訪日外国人数が過去最高を記録し、インバウンド消費による好況が小売業界に到来している。特にアジア地域からの大型クルーズ客船が寄港する沖縄ではその勢いが強く、スーパーマーケット各社の業績も伸びている。しかし今後の課題も散見されるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.