デジタル変革は会議室ではできない:現場に出よう(1/4 ページ)
人手不足や高齢化を背景として、さまざまな分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)が議論されている。ビジネスのデジタル変革に必要な姿勢と人材とは……。キーワードは「現場」だ。
さまざまな業界や業種において、ビジネスのデジタル変革、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が議論されるようになった。ITmedia ビジネスオンラインでは、DXに関する有識者や専門家たちの意見をシリーズでお伝えする。今回は、野村総合研究所の研究理事で未来創発センター センター長の桑津浩太郎氏に、日本のデジタルビジネスの動向と、デジタル化を進めるためのポイントを聞いた。
売った後もつながる“バリューリンク”へ
――デジタルビジネスが議論になっている背景には何があるのでしょうか。
人手不足と高齢化です。その状況は世界の中でも特に日本で進んでいるものの、先進国はどこでも同じような状況です。その結果、いろいろなところに制約が出てきます。最近の例では、宅配便の配送が困難になり、ファミレスの24時間営業が相次いでなくなっています。また、コンビニの店舗運営についても議論されています。以前は外国人労働者によって解決していましたが、人を増やすという方法は頭打ち。生産性を上げるしかありません。そこでデジタル技術の活用が出てきます。社会情勢から見ると、それがデジタル化推進のドライバー。日本企業では、人手不足、高齢化による労働力供給不足がDXを推し進めるということになるでしょう。
技術的にみると、3つの技術がポイントになります。1つはIoT(モノのインターネット)、1つはAI(人工知能)、最後はそれらを組み合わたロボット。例えると、IoTが神経網、AIが脳みそ、ロボットが手足であり筋肉、骨です。労働力が減った分をその3つで補完していこう、というのが技術サイドから見た基本的な議論です。ただ、その3つには難度に差があります。IoTが比較的早く発展し、次にAIが来て、最後にロボットとなります。
――社会的な課題とそれを解決するための技術が示される中、ビジネスはどう変わっていくのでしょうか。
企業や経営者は何を変えていくのか、という疑問に対する切り口はいくつかありますが、ポイントになるのは“バリューリンク”です。ビジネスの考え方として、バリューチェーンからバリューリンクに変わっていくと考えています。バリューチェーンというのは、材料を仕入れて、商品を作って、運んで、売るという企業の一連の内部活動。従来は、効率化によってここを圧倒的に強化してきました。
一方、バリューリンクは、企業とお客さまの間にリンクが成立するという考え方です。自動車業界が典型的な例です。今、一定のグレード以上の新車にはネットワークユニットが入っています。何をしているのかというと、エンジンがどれくらいで回っているか、走行距離やスピードはどのくらいか、急加速や急発進をしていないか、といったデータを細かく取っています。そのデータから、車がどういう状況で使われているか分かります。IoTによって、売った後の商品やお客さんとつながり続けることで、ビジネスのモデルが変わってくるのです。
どう変わるのか。中古車ビジネスは大きく変わっていきます。ドライブデータなどを取れば、車の使われ方が分かるようになるため、査定方法も変わってきます。自動車保険も同じです。従来は車を売ったところでバリューチェーンは切れていました。しかし、本当に安全運転しているのか、というデータを取ることによって、ゴールドライセンス、無事故歴というあいまいな指標ではなく、実際の運転状況を指標にできます。
単純に商品を作って販売して、その後のことは知らない、とブツブツ切れているモデルから、リンクが四方八方に広がってつながっているモデルに変わってくる。それが、バリューリンクという概念です。バリューチェーンがなくなるわけではありませんが、それだけではなく、リンクも併せて管理する必要がある、というのが、DXがメーカーに与える影響です。自動車メーカーなら、中古ビジネス、保険、シェアリング、という今までなかったビジネスモデルが取り込まれていくことになります。
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