顧客の顔が見えない企業は「個人商店」に戻れ:なぜデジタルビジネスは必要か(1/5 ページ)
商店街にある八百屋のような個人商店は、毎日来るような近所の住民が客なので、1人1人のことを深く理解しながら商売している。ところが、顧客が数百万人もいるような大企業になるとそうはいかない。どうすればいいのだろうか……?
2020年に30兆円の市場創出を目指して日本政府が推し進めている「第4次産業革命」。その戦略の下、さまざまな企業のビジネスがデジタル化するという「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が今まさに起こり始めている。
ITmedia ビジネスオンラインでは、DXに関する有識者や専門家たちの意見をシリーズでお伝えする。今回はアクセンチュアの執行役員でデジタルコンサルティング本部 統括本部長の立花良範氏に、日本企業がデジタルビジネスに取り組まなくてはならない理由を聞いた。
デジタルとは何か?
――アクセンチュアでは2013年から「デジタルビジネス」というキーワードを出しています。まずはその定義を教えてください。
デジタルというのは、分かるようで分からないものです。今でもITをあまりご存じでない企業役員の方とお話しするときに、必ず最初にデジタルとは何かを説明します。この語源は「digitus」というラテン語で、指という意味です。指は1、2、3、4、5と数えられますよね。物事を漠然と捉えるのではなくゼロか1で見えるようにする、つまり見えなかったものを見えるようにするのがデジタル化なのです。
例えば、自動車メーカーの場合、デジタル化以前の顧客との関係は、ディーラーでクルマを販売、成約して顧客に鍵を渡すところが一番のホットスポットで、この瞬間にクルマの所有権が顧客に渡り、自動車メーカーに売り上げが立つわけです。
そこに至るまでに自動車メーカーはクルマを設計、開発し、流通させ、テレビCMなどでプロモーションをします。でも、それは顧客には見えません。一方、顧客はクルマを買った後に、それを使ってショッピングしたり、旅に出たりと、いろいろな利用シーンがあるわけですが、デジタル化以前の世界ではそれが自動車メーカーには見えませんでした。
実はクルマを取り巻く情報というのは、1台のクルマができ上がってディーラーに運ばれてくるまでにも、それが売られた後にも膨大に存在するのですが、従来は自動車メーカーと顧客の接点は売れたときだけ、後はせいぜい故障したときくらいしかありませんでした。
それがソーシャルやアナリティクス、センサなどの技術を駆使することで、双方の奥行きがすべて見えるようになりました。これがデジタル化の本質だと考えています。
そこからデジタルビジネスの領域に進んでいくために、企業は2つのことをしなければなりません。1つは「顧客接点のデジタル化」です。
こう言うと、eコマースやモバイルアプリなどを考えがちですが、当然それだけではなく、人間が実際に歩いたところをカメラで撮影し、導線としてデータ化したり、クルマをインターネットにつなげて顧客の走行距離、走行場所をリアルタイムで可視化したりするのもそうです。フィジカルな世界もサイバースペースにある世界もすべてデジタル化するのです。自動車メーカーの例だと、顧客がクルマを買った後の世界をどれだけデジタルとして網羅できるかが重要です。
もう1つは「企業自身のデジタル化」です。顧客接点のデジタル化によって、さまざまな顧客の振る舞いにかかわるデータが得られたとして、そのデータの集計や分析などするのに今までの同じような夜間バッチ処理ではとても間に合いません。あるいは無数のデータを活用する際に人間が計算するなどあり得ず、アナリティクスの力が必要です。顧客接点がデジタル化していくにつれて、企業の内部もデジタル化していかなねばならないのです。そういう時代が来ているのです。
当社ではそれぞれデジタルカスタマー、デジタルエンタープライズと呼んでいて、これらをデジタルビジネスのステージ1に位置付けています。現在支援する日本企業の8割がこのステージです。
当然ここで終わりではありません。例えば、米ゼネラル・エレクトリック(GE)がジェットエンジンにセンサを付けたり、仏ミシュランがタイヤにセンサ付けたりなど、企業が元々持っている商品やサービスがデジタル化する、これをステージ2としています。
最終的には、従来の商品、サービスがセンサやウェアラブル端末などのデジタル技術を使って変革していく中で、業界のカベが崩れていき、新たな産業ができ上がります。例えば、製薬会社や保険会社、病院、行政、ハイテク企業など、それまで業種、業界が別だった産業がヘルスケアという領域に集約されるでしょう。当社がデジタルビジネスコンバージェンスと呼んでいるこの状態がステージ3です。
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