共謀罪で露出が増えるスノーデンは英雄なのか:世界を読み解くニュース・サロン(6/6 ページ)
NSAの機密情報を暴露したエドワード・スノーデンの名前をよく目にする。かつて日本で暮らし、日本文化が大好きだという彼は、海外でどんな評判なのか。また彼が語っている話は、どこまで信ぴょう性があるのか。
とんでもないプログラムが日本に提供された!?
エックスキースコアが日本に提供されたというのは事実なのか。プログラムの実態を知れば、それがどれほど大変な問題なのかが分かる。
エックスキースコアはとんでもなく大規模な監視プログラムである。電子メールやインターネット検索、サイトの訪問履歴、チャットや保存されているドキュメントなど、おおよそ一般的にユーザーが携帯やインターネットで扱うすべての情報を、日本も含む世界150カ所の収集拠点で集めるプログラムだ。
収集拠点では、何百万人という人たちのデータが盗み取られ、最大で5日間、サーバーに保存される。つまり明日になれば5日前のデータは削除されるが、新たに明日の分が今後5日にわたり保存されるという仕組みだ。メタデータ(ファイルなどの情報データ)については、30〜45日にわたって保存され、またあるWebサイトにどんな人が訪問したか、といった情報も分かるようになっている。集められたデータのほとんどは、NSAのエックスキースコア・システムで検索や閲覧ができるのである。まさに治安当局専門の「Google」のようなもので、個人情報を調べ放題になる。
こんなとんでもないプログラムが日本の情報当局に提供されていたというのである。これが事実だとすれば、共謀罪どころの騒ぎではない。米国では、このプログラムは原則的に自国民に対して使うことは許されていない。NSAはテロ関連の国内法に基づいて、米国外または米国民以外であればどれだけ収集しても問題ないという認識でこのプログラムを使っているのである(ちなみに米国民と接触する外国人は監視が可能だ)。
日本政府は米国とは違い、外国の国民のコミュニケーションを盗み、監視する権限はもたない。にもかかわらず、供与されたエックスキースコアで世界中の人たちのデータを盗み見していたとなれば、それは国際問題に発展しかねない。また自国民を大規模に監視しているのではないかと指摘されても仕方がないだろうし、そうなると、私たちすべてのデジタルでのやりとりは提供先であると文書に記されている防衛省情報本部が握っていることになる。すべての国民のプライベートなやりとりや、ビジネスパーソンの愚痴などですら、情報本部は独自に収集し、検索して見ることができるのである。
スノーデンにインタビューをしたNHKは、この話を日本政府は知っているのか、つまりエックスキースコアが日本に提供されていたのは事実なのかと質問している。スノーデンは、「自分はそうした情報を暴露できる立場ではありません」と答え、「私から言えることは、それが素晴らしい質問だということです」とだけ述べている。
この文書を読んでいないから、何とも答えられないという可能性は大いにありそうだ。その上、日本について暴露した情報の重大性にも気が付いていないと勘ぐってしまうのは、筆者だけではあるまい。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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