ダイハツとミラ イースに問う:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
ダイハツは自らのブランドを再定義して「Light you up」というスローガンを策定した。これは主役は自動車ではなく人間であり、人の生活を明るく照らす自動車作りをするというダイハツの覚悟である。そうした中で新型ミラ イースに試乗して気になったことがいくつかあった。
ユーザーに寄り添う
ダイハツの軽自動車は一番低いミラ イース、中間のムーブ、一番高いタントの3車種で構成されており、現在一番低いミラ イースはその存在意義が希薄化している。室内スペースという分かりやすいメリットがあるムーブとタントに対して、意義を確立するのが難しい。だから先代のミラ イースは「低燃費」に特化した。背が低ければ軽いのは自明なので、そこに活路を見出すのは分かりやすい。しかし先代が登場した2011年と比較すると2017年の現在、低燃費はもはや十分な価値とは言えない。
燃費が良いのは当たり前、その上でどんなプラスアルファがあるかが重要だとダイハツは考えた。初代ミラ イースのユーザーに対して全社横断でヒアリングした結果、「安全・安心」や「質感」に注力することにした。それがパワートレインの頼もしさや、フラットな乗り心地の実現に向いたのだと思う。
ダイハツのエンジニアは新たな安全装備「スマートアシストIII」についても力説を始めたが、正直それは意味があるとは思えなかった。長期的展望において、運転支援システムはもはや必要なのが当たり前、「あれができるようになりました。これができるようになりました」と訴求したいのは分かるが、それが通用するのは2017年の今だけで、1年も経てばスタンダードは変わる。もっといろいろとできるようにならなくてはならない。それは技術的課題ではなく、あくまでもコストの問題にすぎない。しかもこれらのシステムは自社開発ではなく、サプライヤーの技術である。だから軽自動車に導入できる程度にコストが下がれば採用されるというだけの話である。
なので、筆者はここで改めてダイハツに問いたい。「お客さまに寄り添う」「Light you up」とは何なのか?
今回ダイハツは旧型ミラ イースのユーザーにヒアリングをしたという。筆者はそれは視野狭窄(きょうさく)だと考えている。三井社長の挨拶にあった原点のミゼットとは何だったのか? 日本のモータリゼーションが発達していく中で、魚屋や八百屋、電気屋といった街の商店主たちは、その恩恵に浴することができずに、相変わらず自転車やリヤカーで商品を運んでいた。当時のダイハツはこの人たちの生活を楽にしてあげるにはどうすれば良いかを考え、個人商店でも買えるミゼットを生み出した。これこそが「Light you up」ではないか。翻(ひるがえ)って旧型オーナーへのヒアリングとはミラ イースの枠組みの中での進化しか考えていないのではないか?
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