「タカタ問題」の論点整理:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
エアバッグの巨大リコール問題で対応策を間違い、深刻な窮地にあるタカタは、会社更生ではなく民事再生という方法をとった。自動車業界を巻き込んだこの問題の論点を整理したい。
ポイントになるのは燃焼剤(火薬)の技術だ。タカタが危機を迎える前、2014年時点での燃焼剤製造のグローバルシェアを見ると、オートリブ(スウェーデン)25%、タカタ(日本)22%、ZF(ドイツ)18%、ダイセル(日本)16%の合計で8割を超え、残り2割弱をその他のメーカーが分け合う構造になっていた。現在ではタカタが10%までシェアを落とし、残りは3社が吸収している。
ダイセルは一般的にはあまり聞かない名前かもしれないが、沿革を見ればセルロイドの生産で創業し、富士フイルムの母体となった会社で、現在も化学製品が主力である。エアバッグ用燃焼剤を含む火工品事業の比率は売上ベースで4分の1程度。株主構成を見ると、機関投資家3社の次に富士フイルム(4.7%)、トヨタ自動車(4.1%)となっている。自動車用エアバッグへの進出に際して、2000年の豊田合成との合弁会社設立が基点だ。
タカタはホンダが1.2%の株式を保有しており、つまり日系メーカーの陣営でみれば、トヨタ系のダイセルとホンダ系のタカタということになるが、実ははっきりと陣営が分かれているわけではなく、タカタ製のエアバッグはトヨタにも納品されている。陣営にこだわって仕入れられるほど供給に余裕が無いというのがホントのところだろう。
技術的障壁が高い4社独占市場から1社が脱落すれば、供給がひっ迫してエアバッグの調達が難しくなる。元々が世界シェアの22%も持っていたサプライヤーが消滅すれば、供給に問題が発生するのは明らかだからだ。自動車メーカーにとって死活問題であるだけでなく、ユーザーにとってもエアバッグの付いたクルマに乗りたければむやみに「潰してしまえ」と溜飲を下げてはいられない。
タカタが世界的に見てレアな技術を持ち、その技術に大きな需要があることを前提に見れば、タカタを存続させることに社会全体にメリットがあるということまでは確かなことだ。もちろん既に事故の原因が特定されており、硝酸アンモニウム系の燃焼材を使わなければ問題は再発しないとする今回の説明が最終的なもので、これまでのように何度もズルズルと修正されないことは大前提だ。
問題の本質は、タカタが人の命にかかわるエアバッグのリコール問題に対して最善の努力を行わず、責任を果たそうとしてこなかったという1点に収斂(しゅうれん)する。経営側がどの時点で正しく原因を把握したのかは何とも言えないが、もっと早期に硝酸アンモニウム系燃焼剤に問題があることを認めて対応を行っていれば、ここまで問題が大きくなることは無かったはずである。こうした統治を行った経営陣は厳しく責任を追及されるべきだが、一方で世界的に価値のある事業を継続させることも社会の要請として重要である。
そもそも、経営陣を決め、経営方針を信任するガバナンスの源泉は株主なので、タカタの株主構成に注目が集まるのは当然のことだ。タカタの筆頭株主は52.1%を保有するTKJであり、TKJの株主名簿には創業者一族が名を連ねる。TKJに続く2位以下にも一族の名前が並ぶ。どう見ても同族経営会社であり、それ故に株主会は株が紙くずになる会社更生法や民事再生法の適用を拒んで私的再生を目論んできた。今後はタカタの事業を存続させつつ、会社のガバナンスを一族からどうやって引きはがすかがポイントになってくる。
もう1つ、本質的な責任問題もそこにはある。われわれユーザーは、製品に自動車メーカーが責任を持つことを前提にクルマを買う。不具合が発生するたびに、メーカーから「それは○○社製の部品なので、文句はそちらに」と言われたのではたまったものではない。最終責任はメーカーになければ困る。という点から見ると、メディアにおいて、エアバッグのリコール問題が全て「タカタの問題」であるかのように議論されているのはおかしい。少なくともユーザーに対しては自動車メーカーの責任なのだ。
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