ハンドルの自動化について考え直そう:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
クルマの自動運転はまだ実現できないが、運転支援システムを組み込むことによって、人のエラーを減らそうとしているのが現状である。そこで今回はハンドルの自動化について指摘したい。
実はもう1つ、快適なやり方がある。自動ハンドルのスイッチをオフにして、自分でハンドルを切る方法だ。どのみち安全運転の義務はドライバーにあり、主体的に運転しなければならないのならば、アクセル、ブレーキ、ハンドルのうち、ハンドル操作だけは自分でやった方が、気持ち良く走れるし、運転が疎かになりにくい。
実際、レーダークルーズによる前車追従機能の労力軽減効果は大きく、長距離の運転を非常に楽にしてくれる。万が一ドライバーが緊急操作を必要とする場面でも、アクセルとブレーキはそれほど操作の継続性が必要とされない。いきなり踏んでもシームレスに操作できる。
しかしハンドルはそうは行かない。それまでに入れている舵角や、ハンドルの反力との継続性によって、そこから可能な操作が変わってくるのが本来の運転だ。そういう意味でも、運転支援におけるハンドル操作は、冒頭の3番、クルマ主体の回避に入ってから行えば十分である。ドライバーが居眠りをして、車線を逸脱しそうになった場合にクルマが助けてくれるというあたりが妥当な落としどころだと、筆者は思うのだ。
あるメーカーの人にこの意見をぶつけてみたことがあるが、彼は原則論としてこの考え方が分かるとした上で、車両の姿勢が大きく乱れてから「遅れて大きい」操作をするよりも、よりクルマの姿勢の乱れが小さい段階で「早期に小さい」操作をすることの有用性を取っているのだと説明した。言いたいことは分かるが、2番のドライバー主体の操作を、安易にクルマ主体に変換するリスクがあり、3番との境目が曖昧になることが本当に安全に寄与するのかどうかについて、筆者は今でも疑いの目を持っている。
首相官邸ホームページの「官民 ITS 構想・ロードマップ 2016」によれば、現在日本の自動運転レベルは4つの段階に分かれている。これを見れば明らかなように、レベル1と2はドライバー責任、レベル3から条件付きでシステム責任となる。既に数社のメーカーでは自動運転になった場合、事故の責任はメーカーが負うとしている。
筆者は、ハンドル操作は責任を負う者が行うべきだと思うのだ。クルマは本質的に快適を求める道具なので、自動化そのものには強く賛同するが、その責任ラインが曖昧なまま安楽化を進めて良いものだとは思えない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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