東京圏主要区間「混雑率200%未満」のウソ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
お盆休みが終わり、帰省先から首都圏に人々が帰ってきた。満員の通勤通学電車も復活した。国も鉄道会社も混雑対策は手詰まり。そもそも混雑の認定基準が現状に見合っていないから、何をやっても成功できそうにない。その原因の1つが現状認識の誤りだ。
混雑率の算定は「目視」という事実
そもそもこの混雑率はどのように算定されるのだろう。鉄道車両には定員がある。新幹線や特急列車なら座席数イコール定員。座席と同じ数の立ち客がいたら混雑率200%。これは分かる。帰省やUターンラッシュのニュースでも想像がつく。通勤電車の場合は、座席数のほかに、吊り手と手すりにつかまることができる立ち客も定員に含む。乗客全員が座り、何かにつかまり、急ブレーキに対応できる。これが定員の目安だろうか。電車の車両の連結面にも「定員○○人」と記載されている。
では、通勤電車の混雑率はどのように計算しているのだろう。乗客の人数をどのように数えているか。驚くべきことに「目視」だ。
財団法人運輸政策研究機構が2005年3月14日に開催したシンポジウムで、東京大学大学院工学系研究科の清水英範教授が「都市鉄道の混雑率の測定方法」という調査結果を報告している。
この論文によると、混雑率の測定方法は「目視測定」「車両に装備された応荷重装置」「自動改札データ」「車両重量によるレールのひずみ測定」「OD調査(利用者アンケート)」が考えられる。このうち、調査した05年当時で、鉄道事業者の7割が「最も精度が高い」と考えている方法は「目視測定」だった。測定が簡易で、調査員に経験者を当てたり、訓練を積ませたりして、精度については問題ないと認識しているそうだ。
国交省の調査区間は、国交省において継続的に混雑率の統計を取っている区間と称しており、いかにも国交省が客観的に調べているように感じるけれど、過去の報道資料によると、実態としては鉄道会社の報告をまとめたものだ。つまり、各社の社員の目視による調査結果のまとめである。鉄道事業者のいう「精度」がいかにアテにならないか、乗客がいちばん知っている。調査担当者は週刊誌を持って電車に乗ってみてほしい。読めるか。
「車両に装備された応荷重装置」による測定は、最も客観的だと思われる。05年当時に比べれば新型車両の導入も進み、より多くの路線で測定可能になったはずだ。画面に広告を流す余裕があるなら、応荷重装置も搭載しているだろう。ただし、05年当時は混雑率の測定に利用されていなかったようだ。応荷重装置は本来、車両の異常を検出するための装置であり、混雑率を測定するほど精度が十分ではなかったという。
「都市鉄道の混雑率の測定方法」より、目視測定と応荷重測定による混雑率表示。この論文は混雑率測定方法の課題を整理し、精度向上の可能性を探り、精度の高い混雑率の数値の拡大活用を提案している。鉄道の混雑に関心がある人にぜひお読みいただきたい(出典:財団法人運輸政策研究機構「都市鉄道の混雑率の測定方法」)
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