東京圏主要区間「混雑率200%未満」のウソ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
お盆休みが終わり、帰省先から首都圏に人々が帰ってきた。満員の通勤通学電車も復活した。国も鉄道会社も混雑対策は手詰まり。そもそも混雑の認定基準が現状に見合っていないから、何をやっても成功できそうにない。その原因の1つが現状認識の誤りだ。
正しい現状認識から始めてほしい
紅白歌合戦でさえ機械集計になり、野鳥の会の集計は演出手法になっていたというのに、電車の混雑率の測定は機械を使わず「目視」に頼っている。そしてその精度が現状に即していないことはほとんどの乗客が知るところだ。交通政策を考える人は通勤電車に乗らないのだろう。だから国交省発表のデータを基に考える。そして政策を間違える。
国交省の調査結果には、まだ怪しいところがある。調査区間が恣意(しい)的に変更されているように見える。特に都営新宿線は、04年度に新宿→新宿3丁目から西大島→住吉へと郊外に変更された。また、京王井の頭線は13年度に神泉→渋谷から池ノ上→駒場東大前へ変更された。ターミナル終端駅の渋谷付近の方が混んでいると思われる。意図的に混雑率の低い区間へ変更しているのではないかと疑いたくなる。
こんな曖昧なデータを基に混雑対策をやろうとすれば、現実と懸け離れたままになってしまう。これできちんとした混雑対策なんてできるだろうか。「東京の電車の混雑率は200%を切った。あとは気持ちで乗り切ろう」。そんなの無理だ。体育会並みの根性論だ。きちんと実態を把握し、国が主導して、施設や制度を改良しなくてはいけない。
実態を反映していないといえば、国土交通省が示す「混雑率の目安」も、そろそろ作り直したい。通勤電車の中で新聞を折りたたんで読む人、なんとか週刊誌を読む人より、携帯ゲームで遊ぶ人やスマホを操作している人の方が多いように見受けられる。混雑率100%は「ニンテンドースイッチなど小型ゲーム機を両手で操作できる」。混雑率150%は「タブレットで映画などを鑑賞できる」。混雑率180%は「スマホでSNSに書き込みができる」。混雑率200%は「手を挙げたままにしないと、あらぬ疑いをかけられかねない」の方が分かりやすい。
もうこの際、全部やりなおし!
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