内燃機関の全廃は欧州の責任逃れだ!:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
「ガソリンエンジンもディーゼルエンジンも無くなって電気自動車の時代が来る」という見方が盛んにされている。その受け取り方は素直すぎる。これは欧州の自動車メーカーが都合の悪いことから目を反らそうとしている、ある種のプロパガンダだ。
さて、図らずも「後処理」という単語が出てきたが、ディーゼルのNOxソリューションの最後に後処理がある。運行条件が悪いか、エンジンの設計が悪いと後処理に頼らざるを得ない。この場合、排気に尿素を添加した液体を噴霧してNOxを無害化する。ただしこの方法だと、尿素を定期的に補給しなくてはならないので、使い勝手も悪いし、運用コストもかさむ。別のアプローチとしてはNOx吸蔵触媒もある。これは排気中から掃除機のようにNOxをかき集めて、ため込む仕組みだ。ゴミで一杯になったら瞬間的に燃料を濃くしてかき集めたNOxを還元する。この技術はリーンバーンエンジンの開発の中でトヨタとキャタラー工業が開発したもので、日本の独壇場である。
欧州のディーゼルエンジンは一般的にEGRの活用が不十分で、根本的な燃焼改善が足りていない。結果的に後処理の尿素頼りになるケースが多い。一連のディーゼル不正問題では、この尿素の消費量を抑えたいがために不正を行ったとする見方も多かった。しかもドイツメーカー全社が不正を行っているという報道すらあったのである。BMWだけはこれを正式に否定する声明を発表したが、他メーカーの中には「告発とは無関係」としつつリコールを実施するという不可思議な会社もある。
何もドイツメーカーのみを糾弾することが目的ではない。同じ疑獄にフランスメーカーもイタリアメーカーも名を連ねており、地球環境に与える問題の大きさに対してあまりにも報道が静かで散発的であることは変わらない。
疑獄に名を連ねた中で別格に責任が重いのは、やはりフォルクスワーゲンだろう。フォルクスワーゲンは2年前にエンジン制御プログラムに排ガス試験対策専用のモードを不正に設けて、一時的に出力を犠牲にして排ガス試験をパスし、実際に路上を走る時には排ガス規制値をオーバーするモードで、パワフルで燃費の良いエンジンだという評判を作り出した。そして世界トップレベルの1000万台のクルマを生産し、フランスやイタリアのメーカーとは比較にならないほど多くのクルマを世界中に輸出している。ドイツ政府との関係性の深さもダントツである。
もちろん各社にも言い分はあるだろう。不正発覚後、さまざまな機関や企業が行った実走行での排ガス測定は、運転状況がテストのモードと異なるのだから、基準値とかい離して当然だという話は分からないではない。
なればこそ、これらのディーゼル疑獄には、どのメーカーが不正を行い、どのメーカーは不正を行わなかったのか、行われた不正はどういうものだったのかを、責任ある機関の名で白日の下にさらすべきではなかったか? そうしてこそ自浄作用が期待できるが、ドイツ政府はこれらの問題をグレーのまま放置し、一向に解明が進まない。不正をただすことが国益に反することは自明だからである。
こんな反社会的で無責任なことをしていれば、大気汚染が悪化するのは当然で、常識的に考えれば不正を行った側の責任である。もし英国で4万人もの寿命が縮んでいることと排気ガスの因果関係が科学的に明らかなのであれば、これら不正を行ったメーカーに損害賠償を行うべきである。それを生ぬるい責任追及でお茶を濁し、あたかも「内燃機関全体の問題」であるかのような顔をして、「われわれは電気自動車にシフトする環境意識の高いメーカーである」といった物言いをどの面でするのか理解に苦しむ。
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