内燃機関の全廃は欧州の責任逃れだ!:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
「ガソリンエンジンもディーゼルエンジンも無くなって電気自動車の時代が来る」という見方が盛んにされている。その受け取り方は素直すぎる。これは欧州の自動車メーカーが都合の悪いことから目を反らそうとしている、ある種のプロパガンダだ。
「日本のディーゼルだって汚染物質を出している」という声もあるだろう。ディーゼルエンジンがその仕組み上、燃料の偏りという問題をはらみ、ガソリンエンジンとの比較で排ガス性能が劣るのは事実である。だから日本製のエンジンだけが完全に無罪であるとは言わない。
だが、リアルな環境汚染の結果はだいぶ違う。日本という国は、英国はともかく、ドイツやフランスよりもはるかに国土が狭く、人口が多く、GDP(国内総生産)が大きい。そして経済活動も人口も首都圏に集中している。欧州のどの国よりも公害が発生する条件がそろっている。
にもかかわらず、都心の空気について公害が喫緊の課題になる気配は微塵も無い。「いや欧州の乗用車はディーゼルが多いから」という向きには商用車の数を考えてほしい。結論から言えば、欧州を走っているディーゼルエンジン車両のすべてが日本製であったなら、ロンドンもパリもあんな悲劇的な状況にはなっていないと筆者は強く思うのだ。
自分たちで不正を行い、それをほとんど総括しないまま、「皆でやったことだから1人1人が反省しようよ」と言い出す欧州の論調をリスペクトしろと言われてもできない。責任転嫁も大概にしろと怒りがわく。だまされてはいけない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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