高級焼肉店「叙々苑」が飛躍できた理由:長浜淳之介のトレンドアンテナ(1/3 ページ)
首都圏を中心に57店を展開する高級焼肉店の「叙々苑」。従来の焼肉店のイメージを覆してきたその軌跡を、外食ジャーナリストの長浜淳之介氏が解説する。
首都圏を中心に57店を展開する高級焼肉店の「叙々苑」。ファミリー層から人気を集める一方、多くの著名人のファンを持つことで知られる。
年商は約212億円で、1店舗当たりの売り上げは約3億7000万円にもなる。これだけの店舗数を持ちながら、高級なブランドイメージを保っているのが叙々苑の強みだ。
また、タン塩の開発や口臭消しガムの配布など、今日の焼肉店で普通に見るサービスを数多く生み出してきているのも叙々苑の特徴だ。今回は、叙々苑が焼肉業界に起こした変革の軌跡を記していきたい。
従来の焼肉店のイメージを覆す店づくり
叙々苑は創業者の新井泰道氏(現・叙々苑会長)が1976年に、東京都・六本木にある旧防衛庁(現在の東京ミッドタウン)前に1号店を出店したのが始まりだ。
70年代当時の一般的な焼肉店のイメージは、焼いた肉とたばこの煙にまみれた安酒をあおる店。男性しか行けない雰囲気があった。
そうした中で、叙々苑は当時の金額で3300万円も内装に費用を掛けた。花を活け、赤いじゅうたんを敷き詰めた店をつくった。制服は女性が紺縞シャツにパンタロン、男性は蝶ネクタイを締め、注文を取る時には片膝を落とすスタイルだったので、高級クラブと間違えて入ってくる客もいたという。
なぜ、新井氏は従来の焼肉店のイメージを覆す店をつくったのか。
新井氏は新宿などにある焼肉店で修業した後、以前からあった神楽坂の焼肉店を引き継ぐ形で72年に独立した。たった12坪6卓の小さな店だったが、原価率50%のカルビを1皿550円で売るなど、良質な肉をリーズナブルに売る戦略で店はヒットした。
毎月100万円貯めることができるほどもうかった。一般的な飲食店の原価率は30%程度なので、いかに品質重視の店だったかがうかがえる。
しかし、正月を除いて毎日14時間以上働き、人件費を限界まで節約した結果の利益だった。そこで新井氏は「同じ原価の肉でも、繁華街でやる方が高く売れて利益も上がるのではないか」と考え、1番高く売れそうな六本木で高付加価値の勝負をしたのだ。
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