路面電車を残した地方都市の共通点:小売・流通アナリストの視点(3/3 ページ)
クルマ移動が主流となって以降、中心部が空洞化した地方都市は多い。しかし一方で、依然として中心市街地が存在感を維持している街もないわけではない。共通するポイントは「路面電車」の存在である。
都市機能を再集結できるのか
地方都市の公共交通に関する投資判断を悩ませている最大の要因は、自動運転とカーシェアリングが、いつごろ普及するかという環境変化の問題であろう。こうしたインフラが完全に整備されると、完全にパーソナルな移動手段が実現し、公共交通自体が不要のものとなることが想定される。
2040年以降には、半分以上が自動運転車になるという予測もあり、そうなれば現在の公共交通の整備は極めて非効率な投資になってしまう。これによって、地方の郊外に住む高齢者の不便は、解消するかもしれないが、完全に自由な移動が実現するということになれば、公共交通のハブ機能を背景として成立している現在の中心市街地は立地優位性を完全に失うことになる。こうなると地域住民が求める利便性は、後は時間だけとなるため、なるべく近くにあって機能(買物、官庁、病院、学校など)が集積している場所に人は集まる、ということになるだろう。
これまで役所、大学、病院といった公共施設を郊外に移転してきた地方都市も多い。その割にはターミナル駅の裏側がスカスカで未利用地が残っていたりする。とにかく、機能が分散していて住民がさまざまな用事を済ますのに、移動時間がかかって仕方がない。都市機能を最も効率的な場所に再集結することが、今後の地方都市に求められることではないだろうか。そして多くの場合、その場所とは現在の中心市街地ということになるだろう。もしもそれが郊外の大型商業施設とその周辺地だとすれば、そこを中心とすればいい。
こうした街の再構築にはさまざまなハードルがあり、極めて困難な話であることは当然だが、整備ができない街は、都市としての引力を失い、人口流出を避けることはできないだろう。都市機能をワンストップ化できた街の周辺に人口は集まり、そうでない街は消えていく。住民の移動制約が完全になくなった世界では、街自体の容赦ない選別が起こることになるだろう。
このような前提に立てば、広域の商圏を必要とする商業者は、これまで以上に街づくりに協調して、関与していかざるを得ない。特に交通ハブ機能に依存していた百貨店、駅ビル運営者などは、住民の動線を享受するためには応分の負担をしていく必要がある。これからは立地へのタダ乗りは許されないのであり、受益者として都市機能を維持することに投資していくことが求められる。
かつて、モータリゼーションは、小売業の盛衰に大きな影響を与えてきたが、自動運転によってまた大きな環境変化が起きようとしている。ただ、過去のモータリゼーションで何が起きたかを振り返れば、ある程度の想定は可能である。2040年まではまだ年月があるが、手をこまねいている時間はあまりない。
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