はてなの新規上場を支えた「コミュニケーション」:上場に必要なチーム力(3/3 ページ)
新規上場を実現するまでには、企業の成長性や健全性などをステークホルダーに証明することが必要だ。2016年2月に東証マザーズに上場した、はてなの取り組みとは? キーワードは「コミュニケーション」だ。
“翻訳”して戦略を示す
上場企業にとって、ステークホルダーとのコミュニケーションといえば、株主や投資家との対話だ。決算や成長戦略などを示すことで、会社への理解を促す。そのためには、株主や投資家が理解しやすい目標や事業説明が必要になる。社内では簡単に理解されることも、外からは分からない。売上高や利益を念頭に置いた目標が求められる。社内の情報を“翻訳”することが必要だ。
はてなの場合も、主力のUGCサービス事業の業績について、より掘り下げた説明が必要になった。同事業では、ブログなど、インターネット上で利用者がテキストや画像などを発信する場を提供する。ユーザー数が指標の1つになるが、ブログを書く人が増える理由も、それを続ける理由も説明しづらい。投資によって増えるとは限らず、ユーザーにとって使いやすい運営を意識するという説明に尽きる。
しかし、業績を決める指標の1つとなる以上、想定していた数字からずれてしまった理由や、どう対策していくか、という説明が必要になる。ブログで発信しやすいニュースの量といった外部要因や、機能の充実などの内部要因を客観的に推察し、事業方針を示すための根拠にしているという。
取引先に安心感も
上場後に可能になったコミュニケーションもある。法人向け事業の取引先に対する情報提供だ。サーバ監視サービス「Mackerel」など、プラットフォームを提供するサービスだが、個人向けサービスと比べると知名度が課題だった。
個人向けサービスのイメージが強かったことから、以前は「事業継続性に不安を感じ、導入に二の足を踏む取引先もいたのではないか」(田中氏)。採用するのにリスクがあると思われていたのだ。
上場後は、法人向けビジネスの業績や成長ビジョンを詳しく開示。取引先の担当者が社内で説明するための材料をたくさん提供できるようになり、安心感が増した。
9月12日に発表した17年7月期の業績は、売上高が前期比21.2%増の18億9000万円、純利益が61.5%増の2億3300万円。順調な成長を遂げているものの、その知名度から「もっと大きい会社だと思っていた」と言われることもあるという。田中氏は「もっと業績を上げるための叱咤激励だと捉えている」と話す。
さまざまなステークホルダーとコミュニケーションを取ることは上場企業の基本。新規上場を目指す企業の担当者にとって、客観的な視点を持ちながら、コミュニケーションを円滑にする体制をつくっていくことが最初の課題といえそうだ。
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