伊丹空港アクセス線が再起動 空港連絡鉄道の現状と展望:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
阪急電鉄が伊丹空港乗り入れに積極的な姿勢を見せた。鉄道路線建設が停滞する中で、有望株は空港連絡鉄道だ。地方空港の空港連絡鉄道計画の動向を振り返ってみよう。
小牧空港(名古屋空港) 年間利用者数約90万人 1日平均着陸回数(国際+国内)62
フジドリームエアラインズのハブ空港。名古屋鉄道小牧線の味美駅から分岐する空港連絡鉄道の構想があった。主要空港が中部国際空港に移ってからは話題に上がらない。
広島空港 年間利用者数約288万人 1日平均着陸回数(国際+国内)33
東京から新幹線と航空便のシェア比較で例に挙がる空港の1つ。東京〜広島間は新幹線で約4時間。航空便は1時間20分。ただし、空港アクセスや保安検査の時間を含めると、新幹線の4時間とほぼ同じ所要時間になるという。特に広島空港の場合、市内にあった旧空港(広島西飛行場)から、山奥の現在地に移転したときに、都市部からの遠さが問題となった。現在はバスで約60分かかる。
山陽本線も近くを通るため、空港連絡鉄道の成功要件は満たしそうだ。しかし、JR西日本は国内線航空を新幹線のライバルと見なしており、否定的な見解である。
松山空港 年間利用者数約291万人 1日平均着陸回数(国際+国内)41
愛媛県は1990年代から空港連絡鉄道に関心を持っている。最近は松山駅高架化とそれに伴う伊予鉄道市内電車の松山駅乗り入れ計画があり、その延長としてたびたび松山空港アクセス線の検討が報じられる。しかしまだ具体化していない。
松山空港と松山駅の位置関係。JR四国の松山駅高架化後の構想として、市内電車(路面電車)の空港延伸が検討されている。しかし、普通鉄道の郊外電車を余戸駅から分岐し、中心街の松山市駅と結んだ方がいいかもしれない(国土地理院地図を加工)
空港連絡鉄道がなく、年間250万人以上が利用する空港は、鹿児島(約544万人)、長崎(約299万人)、熊本(約298万人)、松山(約291万人)、広島(約288万人)だ。九州の空港の利用者が多い。九州は高速バスネットワークが強く、空港連絡鉄道の構想もない。鉄道アクセスがあれば、旅行の目的地選びで上位に入りそうだ。今後の動きに期待したい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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