過熱するデジタル人材の獲得競争:乗り遅れるな(5/6 ページ)
世界規模でデジタル人材の獲得が過熱している。本記事では経営コンサルタントとしての視点から、今後どのような視点で企業の採用・育成が行われるべきかについて論じていく。
ここでは、優秀なテクニカルデザイナーの採用方法として2通りを考察したい。1つは、海外の有力マーケットにおける採用、もう1つが日本にいる優秀な人材の獲得である。いずれの場合も、上述した課題に対応する必要がある。
海外における採用では、有力な人材マーケットの選定がポイントとなる。米国や欧州ほどに人件費が高騰しておらず、優秀なデジタル人材がいるマーケットはどこだろうか。その成立要件として、IT需要地への地理的・文化的な近接性、高水準の教育環境、経済・政治的安定性の3点が重要である。
例えば、ポーランドが良い例だ。西欧への地理的な近接性に加えて、米国・西欧のTV番組の放映が多いために欧米文化の理解が深い。そのため、欧米とのカルチャーギャップが小さく、欧米のチームとのコラボレーションがしやすい。また、25〜34歳の約40%が大学卒業の学位以上の学歴を持っており、その割合は米国や日本よりも多い(図4)。
さらに、ポーランドは2009年の経済危機でもGDP成長率をプラスに維持した実績があり、今後も安定的な成長が見込まれている。これらを見越して、近年Googleなどの大手IT企業がポーランドに進出しており、IBMは世界に約20拠点ある重要拠点IBM Studios(東京には2015年に設立)の1つをポーランドに設立する計画をしている。今後も、このような条件に当てはまる国・地域がデジタル人材の有力マーケットと考えられ、海外における採用時には考慮が必要だろう。
次に、日本にいる優秀な人材の獲得方法について考察したい。日本の人材の採用は、企業にとってはメリットも多い。日本のテクニカルデザイナーは米国に比べて人件費が低いと上述したが、日本の人材は平均してスキルが高く、海外の人材に比べて真面目によく働く傾向があるためだ。
どのように日本の優秀なテクニカルデザイナーを獲得できるだろうか。多様なアプローチが考えられるが、今回は若い人材の働き方の変化に着目して考察したい。
米国では1980年半ば〜2000年ごろに生まれた世代をミレニアル世代と呼ぶ。ミレニアル世代はリベラルな思考を持ち、働き方についても長時間労働を避け、仕事の金銭的価値よりも社会的価値を優先する傾向があると言われる。これまで高給で人気を集めていた企業(投資銀行など)も、ミレニアル世代の望む新しい働き方に対応する必要が生じている。
このような若い世代の働き方の変化は、日本のデジタル系人材にも共通している。20代後半〜30代の特に優秀な技術者で、20代前半はSI企業やその下請け企業に勤務するも、その後にGoogleやAmazonなどの世界的なIT企業や伸び盛りのベンチャー企業に転職し、優秀なテクニカルデザイナーとして活躍する例が多く見られる。
実際にインタビューを行うと、そのような人材が転職先に選ぶ企業には3つのパターンが見えてくる。1つは企業の商品・サービスの社会的意義が明確なケース、もう1つは技術力が高く若手とのコミュニケーション力がある近い世代のテクニカルデザイナーがいるケース、最後に働き方に自由度があるケースだ。最後の働き方の自由度としては、例えば服装や職務利用するPC、椅子や働く場所などの自由度があり、具体的にはハンモックで仕事ができる環境が訴求ポイントになった例もある。
優秀な若手のデジタル系人材の採用には、これらの変化に企業側が積極的に対応することが重要だ。例えば、社内で技術力がある若手テクニカルデザイナーの積極的な採用イベントへの登用が考えられる。特に、トレンドの技術(現在であればAI、ディープラーニング等)の有識者と会話が可能なイベントであれば集客もしやすく、企業は若手の優秀なデジタル系人材との接点を形成しやすいだろう。
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